※弊所に民事保全をご依頼いただく場合の費用については、こちらをご参照ください。
訴訟は、その訴えの提起から判決の確定まで早くても数か月以上かかり、相当の時間を要します。その間に債務者の財産状態あるいは係争物の権利関係に変化を生じ、せっかく権利者が勝訴判決を得ても強制執行をすることができないという事態が生じます。
そこで、民事保全は、このような不合理を避けて、権利を保護するため、権利を主張する者に暫定的に一定の権能や地位を認める制度です。
民事保全には、その目的と方法によって、仮差押えと仮処分があります。
また、仮処分には、係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分の2種類があります。
種 類 |
目的 |
被保全債権 |
効力 |
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仮差押え |
現状維持 |
金銭債権 |
責任財産の維持 |
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係争物に関する |
占有移転禁止の仮処分 |
物の引渡・明渡請求権 |
占有の維持 |
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処分禁止の仮処分 |
物・権利の給付請求権 |
権利の帰属の維持 |
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仮の地位を定める仮処分 |
現状の変更 |
様々 |
新たな法律関係の形成 |
以下、仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分について簡単にご説明いたします。
仮差押えは、金銭債権の支払を保全するために、執行の目的たる債務者の責任財産のうち債権額に相応する適当な財産を選択して、その現状を維持し、将来の強制執行を確保する手段です。
わかりやすく言えば、債務者の財産である預金口座や土地などの不動産を、今後の裁判で予定される支払に向けて凍結させてしまうという手続きです。
係争物に関する仮処分は、金銭の支払を目的としない請求権の将来の実現を保全すべき仮処分です。
わかりやすく言えば、当事者で争っている特定物又は権利について、暫定的にその権利状態の変動を禁止するというものです。この係争物に関する仮処分は、以下の占有移転禁止の仮処分と処分禁止の仮処分の2種類があります。
建物の不法占拠者に対して明渡しを求める訴訟をしている間に、不法占有者が別の第三者を住まわせてしまった場合には、改めてその第三者に対して判決を取得しなければならず、訴訟が無意味になってしまいます。そこで、あらかじめ係争物の占有を移すことを禁じる占有移転禁止の仮処分をしておく必要があるわけです。
自分の所有する不動産に他人名義の登記がなされているような場合も、同様に権利関係の変動を防ぐために処分禁止の仮処分を行います。こうすることで、債務者による不当な執行逃れを封じることが可能になります。
仮の地位を定める仮処分は、争いがある権利関係について、現在、債権者に生じている著しい損害又は急迫の危険を回避するために、暫定的に必要な措置を命じ、仮にその地位を保全するものです。
会社内部で紛争が生じ、違法・無効な株主総会により取締役を解任されるなどして会社の実権を奪われかねないようなケースでは、取締役としての地位を保全するための仮処分を行うことが可能となります。
著しく不公正な方法等で会社の新株発行により不正に株主構成が変えられようとしているようなケースでは、訴訟提起に先立ってまず新株の発行の差し止めを求める仮処分を申し立てることで、迅速に不正な新株発行を差し止めることもできます。
民事訴訟に先立って権利の内容を仮に実現してしまうという仮処分です。
不動産を占有する者が、係争不動産につき違法・危険な使用をしていて、このまま放置していたら多大な損害が生じてしまうようなケースでは、仮処分の段階でいち早く不動産の明渡を実現してしまうことが可能になります。また、労働者が解雇の効力を争うようなケースでは、仮処分の段階でひとまず給与の支払いを実現してしまい、生活の困窮を防ぎつつ、訴訟を進めることも可能です。
①保全すべき権利・権利関係があること(被保全債権の存在)
②保全の必要性があること
民事保全の申立てをする場合、申立人は、申立書に証拠を添付した上で、上記要件を満たしていることを「疎明」しなければなりません。
この「疎明」とは、「証明」のように十分な確信を得た状態までの証拠の提出は必要なく、当事者の主張が一応確からしいと思ってもらえる程度で構いません。
<特定性>
仮差押命令の被保全債権となる請求債権は、他の請求権と識別し得る程度に発生原因等を明らかにして、その内容、数額を特定しなければなりません。
例えば、被保全債権となる請求債権を特定するために、以下①~④に記載した事実を明らかにする必要がありますので、仮処分の申立てを行う上で、上記に関する資料があるかどうかが重要となってきます。
①消費貸借契約に基づく貸金請求権の場合
・契約日時
・元本金額及び弁済期
②継続的な売買契約に基づく代金請求権の場合
・売買の始期、終期
・商品名
・代金総額及び未払代金の合計額
③請負工事代金請求権の場合
・契約日
・工事名
・工期及び代金額
④不法行為に基づく損害賠償請求権の場合
・不法行為に関する具体的事実
仮差押命令においける保全の必要性の判断は、目的物との関係で、現時点で仮差押えをしておかなければ執行力のある債務名義を取得した時点で目的物が散逸しているおそれがあるか否かという観点から判断されます。
そして、当該目的物をもって保全することにより債務者が被る可能性のある損害の大きさも併せて考慮する必要があります。そのため、債務者の被る損害がより少ないと思われる目的物が他にある場合には、当該目的物に対して仮差押えをするべきであるとして、保全の必要性が認められない可能性がある点に留意することが必要です。一般的には、動産や債権が目的物の場合、不動産が目的物の場合と比較して、直近の生活に影響する可能性があるため、慎重に保全の必要性が判断されます。
この担保の金額は、裁判所の自由な裁量によって決定されますが、基本的に以下の<考慮要素>から決定されます。
・債務者に生じる可能性のある損害の内容
保全命令の種類、態様
被保全権利の内容、価格
保全の対象物の種類、価額
債務者の職業、財産、信用状態その他債務者の被るべき苦痛の程度など
・申立ての理由についての疎明の程度
申立書に申立ての趣旨、保全すべき権利の存在、保全の必要性を記載し、証拠を添付します。裁判所に納める手数料は、1件あたり、収入印紙2000円分が必要です。また、郵券も必要です(裁判所によって異なりますのでお問い合わせが必要です)。
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裁判所が申立書等を調べます。東京、大阪などでは、原則として全件について申立人を呼びだし、話を聞く運用が採られています。
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「上記4.担保」をご参照ください。
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保全命令が発令された場合、不服のある債務者は保全異議の申立てを行うことができます。
保全命令が却下された場合、不服のある債権者は、即時抗告の申立てを行うことができます。
①AさんがBさんに対し、100万円貸したものの、返済を受けていない。
→Bさんの預金について『仮差押え』を申し立てる。
②BさんがAさんに土地を売却したものの、Bさんが、後から来たAさん以外の買い手に売らないようにしたい。
→本件土地について『処分禁止の仮処分申立』をする。
③AさんがBさんに対し、マンションを賃貸したものの、Bさん以外の人をマンションに住まわせないようにしたい。
→本件マンションについて『占有移転禁止の仮処分』を申し立てる。