企業間取引では、売掛金など未回収の代金が発生することがあります。しかし、債権の時効が成立すると回収が困難になり、企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、時効が成立する前に適切な対策を講じる必要がありますが、時効制度について不安を抱える方も多いでしょう。そこで本記事では、債権回収において確認しておくべき民法上の時効のルールや、時効の中断方法について解説します。
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債権回収をする際は、「時効」に注意しなければなりません。債権回収における時効とは、法律で定められた一定の期間が経過した場合の、債務者に対して債権の支払いを要求する権利を失うことを指します。債権回収を後回しにすると、代金請求ができなくなり、以下のようなリスクを招く可能性があります。債権回収を進めるには、時効制度を正確に理解することが欠かせません。
◆資金繰りの悪化
◆金融機関の評価低下
◆売上の減少
債権の時効は、民法のルールに基づいて定められています。民法166条1項において規定される債権の時効制度は、以下のとおりです。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用:e-Gov法令検索|民法
このように、2つ定められた時効のうち、早い方が適用されます。企業間取引では、支払いを請求できる状況にあることが明確であるため、債権回収の時効は原則5年と考えられます。令和2年の民法改正によって、改正前には細分化されていた債権時効のルールが、上記の民法166条の規定に一律化されました。特に、金銭消費貸借契約の相手方が事業者ではなく個人の場合でも時効が5年で到来するようになったため、改正前より時効が早いことを確認しておく必要があります。
金銭消費貸借契約は、民法改正前と改正後で、以下のように規定が変わったため、注意が必要です。
相手が営利目的の事業者の場合→5年
相手が個人の場合→10年
民法166条1項に基づき、5年間または10年間のいずれか早い時期
令和2年の民法改正前は、下記の通り、特定の業種や取引で異なる時効期間が定められていました。
◆飲食料や宿泊料など→1年
◆弁護士や公証人の報酬など→2年
◆医師の診療費など→3年
◆不動産の賃料→5年
◆商行為によって生じた債権→5年
しかし、これらのルールはすべて廃止され、令和2年改正後は、民法166条1項の規定が一律に適用されるようになり、改正前とは時効の感覚が大きく変わっているため、注意して確認する必要があります。
債権時効の起算点(時効のカウントが始まる時期)は、民法166条1項に定められているとおり、「債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)」または「債権者が権利を行使することができる時(客観的起算点)」です。
支払期日が定められている場合、その日が『請求できることを知った時』に該当します。一般的な企業間契約では支払期日を定めることがほとんどであるため、債権時効の起算点は支払期日となる場合が多いです。明確な返済日を設けていない場合には、「契約をした日(お金を貸した日)の翌日」が債権時効の起算点となります。
債権ごとに異なる起算点を正確に把握することが重要です。主観的起算点から数える時効であるのか、客観的起算点から数える時効であるのかによって、時効期間が異なります。起算点の認識が間違っていると、債権回収の計画などにも多大な影響を及ぼすため、時効を確認する際は正確に起算点を把握する必要があります。
債権の時効は、一度時効期間がスタートしたものであっても、一定の事由を満たせば時効の完成を止めることができます。「時効を止める方法として、民法は次の2つを定めています。
◆時効の完成猶予
◆時効の更新
時効の完成猶予を満たすことで、時効の進行を一時停止させることができるため、時効を延長している間に時効の更新成立を図り、時効期間をリセットするという流れです。時効完成前に対策をとらなければ、債権回収はほぼ不可能です。以下では、債権時効を止める具体的な方法について解説します。
時効を止める方法の一つは、債務者に代金の支払いを通達することです。支払いを求める意思が相手方に伝われば、時効の完成が6ヶ月猶予されます。通達は電話やメールでも可能ですが、通達したという証拠を残すことができるという点においても、内容証明郵便による請求が最も有力だと言えます。
内容証明郵便による請求をする際は、弁護士名義で送付をすることで、法的措置も考えていることを相手方に明確に伝えられるため、代金の支払いを強く促すことが可能です。送付するだけで時効の完成猶予が認められる上に支払いを強く促す効果も期待でき、債権回収をする際は検討すべき手段と言えます。
債権時効の完成を阻止するには、支払督促や訴訟を起こすことも有効です。裁判手続を開始することで時効の進行を止めることができ、確定判決などに至れば時効を更新することができます。裁判所への訴えを検討する際は、まずは支払督促で代金の回収を図りましょう。支払督促によって解決しない場合は、訴訟上の争いや民事調停等の紛争に発展することになります。
債権回収の相談を弁護士にすることで、時効期間や起算点に基づく適切なアドバイスを受けることができます。債権回収を進める際は、時効の起算点や期間について事例に応じて適切に把握し、時効を考慮した上で債権回収の計画を立てなければいけません。
弁護士に依頼することで、法的な専門知識と経験に基づいたアドバイスを受けながら債権回収を進めることができます。時効に関する認識を誤れば、債権回収失敗のリスクが大きく高まるため、弁護士に判断をサポートしてもらうことを推奨いたします。
債権回収時に弁護士への依頼をしておけば、時効中断に関わる手続きで正確なサポートを受けることができます。時効の更新等で時効を中断させるためには、訴訟などの法的な裁判手続きや相手方との交渉が欠かせません。訴訟などの手続きを有利に進められなければ、時効の中断手続きはもちろん、債権回収自体に失敗する可能性も高まります。法的手続きは弁護士に任せることで、着実に債権回収を進める体制を整えましょう。
債権回収の際は、時効を考慮しながら計画や手続きを進める必要があります。時効に関する判断を誤って時効が完成してしまうと、債権回収がほぼ不可能になるため、時効のルールを正確に把握した上で適切な対応を進める必要があります。
債権回収をする際は、弁護士に依頼をして時効に関する法的なアドバイスと正確なサポートを受けることを推奨いたします。当事務所では、債権回収の実績と経験が豊富な弁護士が、債権回収の方法に関すアドバイスから訴訟手続きまで徹底サポートいたしますので、ぜひご相談ください。