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ある日突然、合同労組・ユニオンなど労働組合から、団体交渉の申し入れがなされたとき、会社としてはどのように対応をすべきでしょうか。普段から団体交渉に慣れているという中小企業の経営者はほとんどいないと思います。そのため、この申し入れ時に適切な対応が出来ていないケースが多く見受けられます。
まず、団体交渉の申し入れがなされたときに、そもそも対応する必要がないなどとして、団体交渉を拒否するケースがみられます。しかしながら、このような対応は避けなければなりません。このような行為は不当労働行為と認定されてしまいますし、ほとんどの場合訴訟になってしまいます。早期に話し合いで解決できた事案でも長期化してしまい、敗訴という結果になれば会社に大きなダメージを与えかねません。
また他方で、必要以上に団体交渉を恐れる必要もありません。団体交渉を恐れるあまり、また労働組合を揉めることを避けるために、労働組合が用意した書類などに闇雲にサインをするケースがあります。しかしながら、このようなことで思いもよらない労働協約が成立してしまっていることもあります。その結果として、会社が労働組合の言いなりになってしまうというケースもあります。
このような事態にならないためにも、団体交渉の申し入れがあった場合は、団体交渉を受けることを前提に社会保険労務士や弁護士などの専門家に、どのように対応をすべきか、どのような点に注意をすべきかアドバイスを受けることが必須だろうと思います。
なお、弊所では、団体交渉の申し入れがあった会社様からご依頼を頂いた場合、団体交渉の対応の仕方から、第1回団体交渉に向けての準備についてレクチャーを行い、団体交渉のポイントになるべき点などを整理し、会社様の不安を取り除くことに重点を置いております。
先述のように、団体交渉に応じる必要がないと独断で判断してしまった場合、どういう事態になるでしょうか。
まず、このような場合、労働組合が各都道府県設置の労働委員会に不当労働行為救済申立を行うことになります。そして、労働委員会から、団体交渉に応じなさないなどといった救済命令が出されることとなります。
団体交渉に応じないということは、余程のことがない限り不当労働行為として認定されることとなります。なお、弊所が過去に担当した団体交渉において、当事者が違う(雇用関係がそもそもない)という事案に遭遇したことがありますが、このような例外的な場合に限られるだろうと思われます。
この労働委員会の救済命令を無視した場合、50万円以下の過料に処せられます。また、団体交渉に応じなさいというような作為命令の場合は、命令の翌日から起算して5日を超える不履行の日1日につき10万円の過料に処せられることとなりますので、特に注意が必要となります。
まず、重要になってくるのは、労働組合が団体交渉でどのようなことを求めているのかをしっかりと確認することです。申入書には、議題が書いてありますが、それは形式的な議題に過ぎません。最終的に労働組合がどのような要求を考えているのかまでは記載されていません。労働組合の本当の狙いや要求を見誤ると、適切な対応をすることが難しくなってきます。第1回の団体交渉のときは、じっくりと労働組合の言動などを観察することが重要になってきます。
また、団体交渉の具体的な進め方については、各書物などで色々と議論されているところではあります。しかしながら、団体交渉は、使用者側が労働組合の言い分を論破してねじ伏せるというような場ではありません。現実的にそのようなことはできませんし、そのようなことをしてもお互いヒートアップしてしまうだけです。団体交渉の現場は、どちらかと言えば、使用者側は防戦一方を強いられるものとなりますが、これに耐えることが重要ですし、団体交渉を有利に進めていく上で重要なポイントとなるのです。労働組合の要求に対しては、しっかりとした合理的な理由をもって拒否することが重要です。労働組合を説得する必要はありません。この防戦に疲れて、労働組合の要求に安易に応じることは避けなければなりません。弊所では、団体交渉を行う際、団体交渉に立ち会った社長や担当者の方々に耐えるべきポイントを明確にするようにしております。決して議論において相手を制する必要もないということを伝えておりますので、団体交渉に臨む際の心理面においても安定していただけるよう努めております。
また、団体交渉と言えば、罵詈雑言が飛んでくるものというイメージがあると思います。最近は、そのような団体交渉はあまり見られなくなってきましたが、そのような団体交渉があることも事実です。しかし、大きな声で罵詈雑言をまくし立てられることが怖いのではなく、不当な労働協約にサインをさせられることが怖いのです。このような事態を避けるためには、経営者だけで団体交渉に臨むのではなく、弁護士など専門家を伴って交渉に臨むべきかと思います。
なお、労働組合が会社側に改善を求めている中に、確かにその通りだというようなものもあります。会社側が早期に改善をしておかないと今後また問題が悪化してしまうのではないかというような問題です。このような場合は、むやみに争うことは得策ではないケースもあります。むやみに争うことで、労働組合側がその点を突破口として余計にヒートアップしてくる可能性が十分になります。そのため、このようなケースでは、会社としても自主的に問題点を解消する措置を採ることも必要です。そうすることで無用な紛争は避けられ、早期に解決する可能性も高まります。弊所では、労働組合が要求する事項について、合理的な理由があるものか否かを依頼者と一緒に検討し、必要があれば改善を指導することも心掛けております。
既に、何度も述べているところもありますが、団体交渉で注意すべき最低限のポイントをまとめると以下のようになります。
■団体交渉の申し入れを一方的に拒否しない。
■労働組合が何を要求しているのかをしっかりと確認する。
■団体交渉では、防戦を強いられるが合理的な理由をもって要求を拒否するという姿勢が重要。
■受け入れられない要求や条件などは絶対に拒否をする。
■労働組合が用意した書類に安易にサインなどをしない。
■明らかに会社側に改善が必要な点については必要以上に争うべきではない。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、会社経営にも大きな影響を及ぼしております。そのため、早期退職、整理解雇、賃金カットをはじめとする不利益変更などで会社経営の立て直しを行っている企業も多いかと思います。そして、当然のことながら、上記のような会社の立て直しを進めれば進めるほど、労働組合の動きも活発化してくることとなります。現在では、このコロナ禍において団体交渉も増えているように思われます。コロナ禍における経営の立て直しにおいて団体交渉は慎重に対応する必要があります。団体交渉の申し入れがなされた場合は社会保険労務士や弁護士などの専門家へのご相談をされることをお勧めします。
A-1: 団体交渉の申し入れがなされた場合は、基本的に避けることはできません。第1回の団体交渉の日程の調整と、会場の確保が必要となりますが、時間は2時間程度とし、終業時刻外で設定します。また、会場は会社外の貸会議室などを利用することが一般的です。貸会議室を確保する前提として、出席者の人数の確認をしておきましょう。不当に多くの人数が参加してくるという場合は、その必要性を聞き取り、場合によっては事前に組合側と参加人数について協議することも必要になってきます。
なお、最初の対応は、今後も引き続きルールとして存在し続けることとなります。最初の対応を間違えると後々問題が生じる可能性がありますので、弁護士や社会保険労務士の専門家に相談することをお勧めします。
A-2: 現在は、大きな声で罵詈雑言を並べるような団体交渉はあまり聞かなくなりましたが、中にはそのような団体交渉もあります。大きな声で罵詈雑言を言われただけでは団体交渉を拒否するというのは難しいと思います。但し、その発言が脅迫的であったり名誉棄損的な発言であったりした場合はもちろんのこと、まともな話し合いができない程度のものであれば、一旦団体交渉を中止して注意をすることが必要となります。現場で注意した後、さらに書面で警告書を送っておくべきかと思います。このような行為が更に繰り返される場合は、労働組合が対応に配慮すると約束するまでは団体交渉を拒否する、ということもあり得ると思います。但し、不当労働行為という認定を受ける可能性が全くない訳ではないので、悪質な場合は、会社側から労働委員会に救済申立をするという方法が良いのではないかと思います。
A-3: このような大勢で団体交渉に押し寄せてきたということを理由に団体交渉を拒否をしてしまうと、不当労働行為と認定されてしまう可能性があります。但し、このような状況ではまともな話し合いもできなくなります。そのため、会社の方から労働委員会の方へ団体交渉のルールなどの設定を求める申立てをすることが望ましいと思われます。
A-4: ほとんどの組合は、中小企業に対しては、社長の出席を要求することが多いのではないかと思います。但し、社長を出席させることは義務ではありません。当該案件の決裁権者である総務部長や人事部長などが出席することで足りる場合もあります。社長を最初から出席させるかどうかは非常に難しく、案件ごとにケースバイケースで判断する必要があると思います。
A-5: 団体交渉が行われる時間帯ですが、結論的には就業時間外で行った方が良いと思います。その理由ですが、就業時間中に団体交渉を行った場合、その時間帯の賃金の支払いをカットできるのですが、賃金カットに関する取り決めが必要となってしまいます。取り決めを省略してしまうと賃金カットができない可能性が出てきます。このようなトラブルを回避するためにも、団体交渉は就業時間終了後に行うことが望ましいとされております。