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日本航空(JAL)の子会社の魅力的な景品提供はNG?

問題とされたジャルパック社の景品の概要

 2021年から2023年3月まで、日本航空(JAL)の子会社であるジャルパック社が、HP上で宿泊費の20%を超えるマイル(1万マイル)がもらえる予約プランを販売していることが判明し、これが景品規制に違反していることが発覚しました。報道によりますと、沖縄県那覇市のホテルのプランの販売方法について問題があったようです。

 沖縄県那覇市内で宿泊料金が1万円弱のプランを販売していたのですが、それとは別に同じホテルに宿泊するプランで1万マイル付プランというものを提供し、そちらは3万3200円で販売していたようです。JALの1マイルをお金に換算するといくらくらいの価値があるのかという問題もありますが、仮に1マイルを1円と安く換算したとしても本体表示価格3万3200円の20%は余裕で超えてしまいますので、これは総付景品の規制を超えるものですので、景品表示法に抵触してしまいます。

総付景品規制とは

 この宿泊した際に提供されるマイルは、いわゆる景品表示法の総付景品にあたります。総付景品とは、一般消費者に対し、「懸賞」によらずに提供される景品類であり、商品・サービスの利用者や来店者に対してもれなく提供する金品等がこれに当たります。総付景品を提供する場合、かかる景品類の最高額(上限)は、取引額が1000円未満の場合は200円まで、1000円以上の場合は取引額の20%までとなっています。

 ジャルパック社が行ったマイル付き宿泊プランの場合、宿泊費が3万3200円であり、景品類の価額の上限は6640円となりますので、上記のとおり1マイル1円と計算したとしても、10000円の景品を提供しているため、総付景品の上限をオーバーしていることになってしまうのです。

 景品規制に違反していることが発覚したのは、一般の旅行客からの指摘だったようです。景品規制に違反するかどうか調査することなく、キャンペーンを行う企業も多くあるのではないかと思います。景品規制に違反した場合、行政処分として措置命令がなされ、これに従わなければ2年以下の懲役か300万円以下の罰金と、法人には別途3億円以下の罰金が科されることにもなります。

 

消費者の購買意欲を不当に煽るものなのか

 上記のとおり、ジャルパック社が行った景品提供は景品表示法に抵触することになりそうです。ここで、少し検討してみたいのは、マイルそのものを貯めたくて飛行機に乗っている乗客もいるのですが、そのような人からすれば多少のお金を払ってでもマイル特典が大きいプランを申し込んだ方がメリットもあるということです。何度も飛行機に乗るより効率よくマイルが溜まるありがたいプランではないかという見方です。マイルを貯めることで、航空会社におけるステータスもあがり、そのステータスに応じて特別なサービスを受けることができるのですが、それを目的としている人も少なからずいると思います。そして、そのような目的をもった人しか、このようなプランには申し込みをしないだろうと考えることもできます。

 そうだとすれば、景品表示法の目的は、「消費者一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止」(景品表示法第1条)にありますが、ジャルパック社のプランは果たして自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると言えるのでしょうか

 この点については、非常に難しい問題だと思います。景品規制の違反事例というのは、景品表示法が規制している不当表示と比較して、実際に消費者が被害を受けたという認識が少ないというのが特徴的だと思います。消費者は景品そのものに商品や役務よりも価値を見出し、それを取得するために色々と試行錯誤しながら購入しており、その景品を取得したことで非常に満足をしているので特に被害申告をすることもないのだと思います。

 では、このような事例は、特に違法だなどと騒ぎ立てる必要はないのでしょうか。この点を考える上で、以前問題となったコンプガチャの事例が参考になるのではないかと思います。コンプガチャは、オンラインゲーム上で二つ以上のキャラクターを組み合わせることで、おまけとしてレアキャラを取得することが出来る仕組みです。このレアキャラを取得するために、子供から大人まで夢中になり、小学生でも百万円以上もつぎ込んでしまったことが社会問題となりました。このような事例から明らかにいえることは、景品そのものに魅力があり過ぎればあり過ぎるほど、消費者の自主的かつ合理的な判断を鈍らせ、必要がない商品や役務に次々とお金をつぎ込んでしまうというものです。

コンプガチャの景表法上の問題についてはこちら

 こういう事例も踏まえると、やはり消費者が満足をしているからといって規制の必要がないと考えることはできないだろうと思います。

 

まとめ

 景品そのものに魅力があればあるほど、本来であれば購入しないであろう商品や役務を購入するということが過去の事例などでもそれなりに実証されているのだろうと思います。今回のジャルパックの商品も本来であれば沖縄県那覇市に行く必要もないし、特に行きたいと思わないがマイルが欲しいからとついつい手を出して購入する可能性が非常に高いものです。これ自体がやはり消費者の自主的かつ合理的な判断を阻害しているものになっていると思います。

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森大輔

2009年の弁護士登録以来、企業問題に取り組む。森大輔法律事務所を開所し、労働分野や広告、景品表示案件を中心に多くの顧問先をサポートしている。講演実績は多数あり、企業向け・社会保険労務士向けの労務問題セミナーを定期的に開催している。

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