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【弁護士が解説】インシップ「ノコギリヤシエキスサプリ」に対する広告の差止請求訴訟について

最近、健康食品の広告表示が優良誤認(景品表示法5条1項)に該当するかについて、興味深い裁判例(岡山地裁令和4年9月20日判決)が登場しました。

簡単に事案の概要をお伝えすると、適格消費者団体「消費者ネットおかやま」が、「ノコギリヤシエキス」というサプリメントに係る新聞広告の表示について、医薬品として承認されていないにもかかわらず、新聞広告において頻尿の改善という医薬的な効果効能を表示していることが、優良誤認に当たると主張し、これを製造・販売・広告表示をしている株式会社インシップに対し、新聞広告の表示の差し止めを求めるといった事案でした。

 結果的には、原告である「消費者ネットおかやま」の主張には根拠がないとされ、株式会社インシップが勝訴しました。

 

争点①

まず、①適格消費者団体「消費者ネットおかやま」は、医薬品として承認されていないにもかかわらず、「頻尿改善」という医薬品的な効能効果を表示しており、医薬品であるとの誤認を引き起こすものであると主張した点です、

これについて、岡山地裁は、本件広告に「夜中に何度も・・・」、「中高年男性のスッキリしない悩みに!」との表題や、寝間着の男性が、夜に、困ったような表情で下半身を震わせながら扉のノブに手を掛けているイラストとともに「何度も・・・ソワソワ・・・」との記載等から、頻尿の男性に向けられた商品であるとの印象を受けるといえるとしました。

しかしながら、本件広告には、具体的な人の疾病名や特定の症状、それに対する具体的な治療効果等は記載されていないことや「すべて個人の感想です。効果効能を保証するものではありません。」との脚注が付されている等から、医薬品であるとの誤認を引き起こすおそれがあるとはいえないと判示しました。

今回の訴訟のように、健康食品の広告における暗示的表現の是非が問題となった「だいにち堂訴訟」(東京地裁令和2年3月4日判決・東京高裁令和2年10月28日判決)では、広告の「ボンヤリ・にごった感じに」、「スッキリ・クリアな毎日」との表現等、広告全体の印象から「商品の優良性を強調するもの」とし、優良誤認表示と判断されました。そして、機能性表示食品制度の導入を契機に、健康食品の暗示的表現に対する規制は年々強まっており、今回の訴訟も「だいにち堂訴訟」を踏まえた判決がなされるため、注目を集めておりました。結果的に、今回の判決では、「だいにち堂訴訟」とは異なる判断がなされました。「だいにち堂訴訟」と今回の判決で異なる点は、今回の判決では特に医薬品的な効能効果を暗示させる表現により、医薬品であるとの誤認を引き起こすかといった点がフォーカスされた点であろうと思います。医薬品というのは、国により厳格に審査され、薬機法14条1項の承認を受けて製造、販売されているものです。そのため、医薬品であるとの誤認を引き起こすおそれは、単なる商品の優良性を謳う表現よりも低いと考えられます。裁判所としてもこのような考え方から、抽象的な表現にとどまる広告表現である限り、医薬品であるとの誤認を生じないと判断したと思われます。

今回の裁判例を踏まえ、医薬品であると誤認を引き起こさないよう健康食品販売業者等が広告する際に気を付ける点は、以下のとおりです。

・具体的な人の疾病名や特定の症状、それに対する具体的な治療効果を記載しないこと

・個人の体験談を記載する際、抽象的な表現にとどめ、改善効果の程度も明らかにしないこと

・個人の体験談の脚注に「すべて個人の感想です。」等と個人差があると示すこと

 

争点②

また、今回の訴訟では、②適格消費者団体「消費者ネットおかやま」が、医薬品的な効果をうたっていなかったとしても、そもそもサプリに頻尿改善効果があるか疑わしいにもかかわらず、頻尿改善効果があるとの誤認を生じさせるものであると主張し、「ノコギリヤシエキス」の効果を否定する独自の証拠を提出しました。これに対し、株式会社インシップも「ノコギリヤシエキス」の効果を肯定する証拠を複数提出しました。

その結果、岡山地裁は、「医薬品でさえ、対象者の素因や症状の程度、試験の条件、評価方法等によって、治療効果がみられないとの試験結果が出ることはあり得るものであり、・・・そのような場合であっても、直ちに治療効果がないものと評価することはできない」とし、「ノコギリヤシの頻尿改善効果を肯定する研究報告等も相当数みられるのであるから、少なくとも個人差のある一定程度の頻尿改善効果が認められる可能性は否定しきれない」と判断しました。

このように、裁判所は、「ノコギリヤシエキス」の効果を否定する試験結果が存在していたとしても、その効果を肯定する研究報告等の内容から合理的根拠が認められるか否かが判断されるものであることを明らかにしたといえます。

 

以上から、今回の判決では、株式会社インシップの主張が全面的に認められ、請求が棄却されました。しかし、現在、適格消費者団体「消費者ネットおかやま」は控訴しましたので、控訴審がどのような判断をするかわかりません。結論が変わることも考えられますので、引き続き暗示的表現の是非に関する判断に注目です。特に健康食品の販売業者等は判決内容に注意しておくべき事例だといえるでしょう。

 

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弁護士 岡井 裕夢

景表法や商標案件に加え、労働分野のご依頼を多くいただいている。直近の法改正にアンテナを張り、民法改正や同一労働同一賃金に関するセミナー講師の経験も有し、最先端の情報を提供することを心掛けている。

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