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新型コロナと労災

新型コロナウイルス感染拡大に伴って、テレワークの導入などにより、日本人の働き方が大きく変わりましたが、働き方の変化に合わせて、労災の適用場面はどのように変わるのでしょうか。

⑴ テレワークでの労災について

まず、テレワークにも労災保険法が適用されるかが問題となりますが、事業者の指示によってオフィス以外の場で業務を遂行するため、通常のオフィスでの勤務と同様に、労災保険法が適用されます。

つぎに、労災と認定されるためには、①「業務遂行性」と②「業務起因性」の2つの要件を満たす必要があります。つまり、

①「労働者が労働契約に基づいて事業者の支配下にある状態で、怪我や疾病が発生したこと」と、

②「労働者が労働契約に基づいて事業者の支配下にある状態に伴って危険が現実化したものと経験則上認められること

が求められます。

たとえば、テレワークを自宅で行っている場合、業務に必要なパソコン作業を伴う怪我の場合は、①業務遂行性と②業務起因性の両方を満たすため、労災が認定されます。また、業務に必要な本を本棚から取り出す際に、本棚の本が倒れてきて怪我をした場合などは、業務中に、業務に付随する行為で怪我が発生しているといえ、①業務遂行性と②業務起因性を満たし、労災が認定される可能性があります。

しかしながら、自宅でのテレワーク中に、部屋の掃除に手を付けて本棚の本が倒れてきて怪我をした場合などは、業務とは関係のない私的行為の最中に起こった出来事です。そのため、②事業者の支配下にある状態に伴って危険が現実化したものとはいえず、業務起因性が認められない結果、労災は認定されません。

事業者と労働者の間で、テレワーク中の業務時間や業務内容を今一度確認し、当該業務内容によってどのような怪我や疾病が発生する可能性があるのかを双方が把握したうえで、必要な限りで業務内容を変更したり注意喚起をすることで、労災の発生を予防すべきでしょう。

⑵通勤電車で新型コロナウイルスに感染した場合について

 通勤によって労働者が被った傷病等を、通勤労災といいます。

 この「通勤」とは、就業に関し、①住居と就業の場所との間の往復、②就業の場所から他の就業の場所への移動、③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路及び方法で行うものをいい、業務の性質を有するものは除くとされています。

たとえば、時差通勤や遅刻も、就業との関係性があるため「通勤」に当たります。また、当日の交通事情により迂回した経路や、自動車で出勤している者が駐車場に自動車を駐車して通る経路は、合理的な経路といえるため、「通勤」に当たります。

また、移動の経路を逸脱・中断した場合には、その逸脱・中断の間とその後の移動は「通勤」に当たりません。

たとえば、通勤の途中で経路付近の公衆トイレに立ち寄る場合や、経路上のコンビニによって飲み物を購入することは、逸脱・中断に当たらないとされていますが、下記の行為は、厚生労働省令で、逸脱・中断とされています。

・日用品の購入その他これに準ずる行為

・職業訓練、学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為

・選挙権の行使その他これに準ずる行為

・病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為

・要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)

それでは、「通勤」途中に新型コロナウイルスに感染した場合には、通勤労災は認められるのでしょうか。

結論から申し上げますと、通勤中に濃厚接触者がいるなどして感染ルートを特定可能な場合には、通勤労災が認められる可能性がありますが、通勤中の感染ルートが判明しない場合には、「通勤」の際に感染したということは困難ですので、通勤労災は認定されません。

そのため、ある日、電車に乗って通勤中に近くの人が激しい咳をしていたとしても、潜伏期間から計算した場合に、その人からの感染なのか不明なのであれば、「通勤」時間以外に他のルートから感染した可能性が残るため、通勤労災の認定は困難となります。

また、感染したと思われる日の通勤途中に、病院に立ち寄って通勤を中断・逸脱した場合には、病院での感染可能性があるため、通勤労災の認定は極めて厳しいものといえます。

⑶オフィスに出勤中に新型コロナウイルスに感染した場合

 潜伏期間から計算して、業務中に同僚や上司、取引先から感染したといえる場合は、①業務遂行性と②業務起因性が認められるため、労災が認定されます。しかし、業務時間外に外食をして感染した可能性等がある場合には、労災認定は困難となります。

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森大輔

2009年の弁護士登録以来、企業問題に取り組む。森大輔法律事務所を開所し、労働分野や広告、景品表示案件を中心に多くの顧問先をサポートしている。講演実績は多数あり、企業向け・社会保険労務士向けの労務問題セミナーを定期的に開催している。

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