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島村楽器に対するフリーランス法違反の勧告について弁護士が解説

 

大手総合楽器店「島村楽器」が、フリーランス法(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」に違反したとして公正取引委員会から勧告を受け、公表されました。

(令和7年6月25日)島村楽器株式会社に対する勧告について | 公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/250625_fl_shimamuragakki.html

この事案は、フリーランス法が令和6年11月1日に施行されてから初の大手事業者に対する勧告です。

いったいなぜフリーランス法違反と指摘されたのか、今後どういう対応策をとればよいのかについて、弁護士が解説します。

1.違反事実の概要

公正取引委員会の上記HPによると、具体的な違反行為としては以下の3点です。

(1)取引条件を明示しなかった

 島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、フリーランスの音楽講師97名に対し、音楽教室のレッスン等の業務委託をした際に、直ちに、報酬の額、支払期日等の取引条件を、書面又は電磁的方法により明示しなかったこと。

 

(2)報酬の支払い遅延

島村楽器は、令和6年11月12日に行った業務委託について、フリーランス講師1名の本件業務委託に係る報酬の支払期日を「毎月末日締切、翌々月10日支払」すなわち業務完了日から起算して60日を超える期日に定めて明示し、この者に対してこの期日に報酬を支払ったこと。

さらに、島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、フリーランス講師85名に対し業務委託をした際、直ちに、報酬の支払期日を明示せず、法定の支払期日までに報酬を支払わなかったこと。

 

(3)無償で労働提供させた

島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、フリーランス講師11名に対し、合計19回、同社が運営する音楽教室の体験レッスンを無償で行わせていたこと。

2.フリーランス法に違反する理由

上記3つの行為は、いずれもフリーランス法に違反します。

(1)取引条件の明示義務

ア 法3条1項

フリーランス法は、フリーランスに対し業務委託した場合は、直ちに、報酬額や支払期日など取引条件を書面または電磁的方法により明示しなければならないと定めています。

イ 今回の状況

島村楽器は、報酬額や支払期日などの取引条件を97名のフリーランス講師に対して口頭で伝えただけで、これらを書面又は電磁的方法により明示する義務を怠りました。

そのため、この行為が3条1項に違反すると指摘されました。

 

(2)期日における報酬支払義務

ア 法4条

フリーランス法は、業務完了日から60日以内のできるだけ短い期間内で支払い期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければならないと定めています。

また、①支払期日が定められなかった場合は業務完了日が、②業務完了日から起算して60日を超えて支払期日が定められた場合は60日を経過する日が、それぞれ支払期日となり、その支払い期日までに報酬を支払わなければなりません。

イ 今回の状況

フリーランス講師1名については、報酬の支払期日が明示されていたものの業務完了日から起算して60日を超える期日であったため、報酬は「60日を経過する日」に支払わなくてはなりませんでした。

また、フリーランス講師85名については、報酬の支払い期日が明示されずに定められなかったので、

報酬は業務完了日に支払わなくてはなりませんでした。

しかし、いずれに対しても法定期間内に報酬の支払いがなされなかったため、これらの行為が法4条5項に違反すると指摘されました。

 

(3)不当な経済上の利益の提供要請

ア 法5条

フリーランス法は、フリーランスに対し業務委託した場合に、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、当該フリーランスの利益を不当に害してはならないと定めています。

イ 今回の状況

島村楽器がフリーランス講師11名に対して通常業務と同様の内容である体験レッスンを無償で行わせて対価を適正に支払わなかったことは、自己のために経済上の利益を提供させたものとして、この行為が5条2項1号に違反すると指摘されました。

 

 

 

3.弁護士の視点から対応策のアドバイス

もし、このようなフリーランス法違反の事実が見つかった場合には、どのように対応すればよいでしょうか?

速やかにフリーランス法に沿ったコンプライアンス体制を構築するなど改善策を整えることが企業の責務となります。

以下、弁護士の視点から対応策についてご説明いたします。

 

(1)契約書の整備と取引条件の明確化

すべてのフリーランスとの契約において、業務委託契約を締結する時に、報酬額、支払期日等の取引条件を書面または電子契約での明示を必須とすることが必要です。

予めフリーランス法が要求する取引条件が明示されている契約書、発注書、覚書等のひな形を用意しておいて、これを用いて契約を締結するとよいでしょう。

また、何をどの程度記載すべきか、未定事項のある場合の対応と手順などについては、組織内の誰が見ても対応できるよう、共通のマニュアルを作成しておくと良いでしょう。

フリーランスとの契約後は、取引条件の記載された書面や電子データ等を記録に残るかたちで双方が保存しておくとよいでしょう。

 

(2)報酬支払の期日管理の徹底

フリーランスに対する報酬は、法定期日内(60日以内)に支払うことが必須です。

前述した3条通知のひな形において、支払期日の記載欄を設けるとともに、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内に設定する必要がある旨の注意書きをするなどの工夫をするとよいでしょう。

システム的に支払遅延が起こらない仕組み(アラート機能、フリーランスに対する請求書発行依頼など)を構築して、画一化して対応できるようマニュアル化しておくことも有用です。

また、支払期日において、実際にそのとおり支払われているか社内チェック体制も構築しておくと安心です。

 

(3)無償労働の禁止と適正対価の支払い

フリーランスに通常業務相当の業務を依頼する場合には、報酬を支払うことが必要です。

たとえ無料体験やプロモーション目的でも、無報酬であれば今回のように違法となる可能性が高いと思われます。

 

 

(4)社内教育と法令順守体制の強化

公正取引委員会による島村楽器に対する勧告では、フリーランス法に沿った具体的措置をとることと合わせて、その旨を役員、従業員、さらにはフリーランス講師達に周知徹底することも勧告されました。

このことから、社内コンプライアンス体制を見直して、フリーランス取引に関与する全社員及び店舗スタッフに対してフリーランス法に関する教育・研修を実施したり、フリーランス法に沿ったマニュアルの内容を周知徹底することが求められているといえるでしょう。

4.お気軽に弁護士へお問い合わせください

(1)今後の見通し

フリーランス法は2024年11月1日から施行されていますが、今回の事案は6月になって連続している業界大手の事業者に対する勧告事案です。

公安取引委員会は、2025年6月30日から8月31日までを、本年度におけるフリーランス法の広報強化期間(第1弾)と位置付けており、力をいれています。

今後も同様の事案は厳しく摘発されることが予想されます。

特に、無償での業務提供の強要は、優越的地位の濫用として独禁法や下請法の観点からも問題となるため、コンプライアンス体制の見直しが急務といえるでしょう。

 

(2)24時間いつでも問い合わせOK

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森大輔

2009年の弁護士登録以来、企業問題に取り組む。森大輔法律事務所を開所し、労働分野や広告、景品表示案件を中心に多くの顧問先をサポートしている。講演実績は多数あり、企業向け・社会保険労務士向けの労務問題セミナーを定期的に開催している。

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