新型コロナの影響で、令和2年4月7日、政府より緊急事態宣言が発令され(7都府県を対象。4月16日に全国を対象に発令されました。)、同月11日には安倍晋三首相から「出勤者を最低でも7割は減らす」との要請もあり、労働環境は大きく変化しています。ところが、テレワークを導入したいと思っていても、突然のことで、何から始めればよいかが分からないという会社も多くあると思います。
そこで、テレワーク(ここでは「在宅勤務」の意味に絞って使用します。)を導入するにあたり、何をすればよいかについて、労務管理の観点からお伝えしたいと思います。
そもそも、テレワークを導入すると、これまでと何が変わるのかについて考えていきたいと思います。
テレワークを導入すると、労働者は自宅で業務を行うことになりますので、使用者は、労働者がいつからいつまで働き、今どのような業務を行っているかについて、直接見て確認することができません。
テレワークといえども、時間外に業務を行えば割増賃金が発生しますし、それが深夜まで及べば深夜割増賃金が発生します。また、各労働者に業務量のミスマッチが起こっていると、納期までに業務を完了できなくなるかもしれませんし、労働者間で不公平感を感じさせることになりかねません。
そこで、以下では、まずテレワークの導入に当たり労基法上の留意点を説明したのち、①労働者の労働時間の把握、及び②業務の進捗状況の把握について説明したいと思います。
テレワークを導入しても、会社と従業員が使用者と労働者の関係にあることに変わりはありませんので、労働基準法の適用はもちろん受けることになります。
テレワークの導入に当たり、労基法上の留意点は以下の点になります。労基法上、就業規則の変更が必要となる点に注意が必要です(常時10人以上の労働者がいる会社の場合)。
就業規則の変更方法は、既存の就業規則にテレワーク用の条項を盛り込む方法もありますが、「テレワーク勤務規程」のようにテレワーク用の就業規則を別途設ける方法もあります。
使用者は、労働契約締結の際、労働者に就業場所を明示する必要があります(労基法15条1項、労基法施行規則5条2項)。在宅勤務であれば、就業場所を従業員の自宅と明示することになります。
使用者は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録する必要があります(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準・平成13年4月6日基発第339号)。この点は、割増賃金等が発生するか否かの管理にも関わります。
業務評価や人事管理について、会社へ出社する労働者と異なる取り扱いをする場合は、その内容を丁寧に説明する必要があります。
また、就業規則の変更手続が必要となります(労基法89条2号)。
通信費・情報通信機器等の費用負担については、あらかじめ決めておく必要があります。なお、これらの費用を労働者に負担させる場合は就業規則に規定する必要があります(労基法89条5号)。
テレワーク中の労働者に社内教育や研修制度に関する定めをする場合も、当該事項について就業規則で規定する必要があります(労基法89条7号)。
労働者の労働時間を把握するためには、ⅰ)始業・終業時刻の管理と、ⅱ)業務時間中の在席確認の二つの視点でとらえる必要があります。
すでに述べましたが、これまでのように労働者が会社に出社して業務を行うのであれば、使用者も、いつ、誰が出社し、退勤したのかがわかります。会社に備え付けられているタイムカードや、社用のパソコン内の勤怠管理システムで勤怠を管理している会社も多いことでしょう。ところが、テレワークになると誰がいつからいつまで仕事をしているのかがわかりません。そこで、始業・終業時刻を管理するルールを労使間で決める必要があります。
労働時間の管理については、厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を出しており、テレワークを導入する場合もこのガイドラインに準拠する必要があります。
労働時間は、使用者が労働者の労働日ごとの始業・終業を確認する必要があります。そこで、原則としては、使用者自らが現認して確認したり、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録で確認することになります。
しかし、テレワークのようにやむを得ず労働者の自己申告制で労働時間を確認する場合、例外的に、以下の措置を講ずる必要があります。
・自己申告を行う労働者や労働時間を管理する者に対しても、自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
・自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
・使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと、さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること
以上のように、労働者の自己申告制で労働時間を把握する場合であっても、得られた資料から適正に労働時間を把握することが求められます。
したがって、労働者から始業・終業をメールで伝える方法や、オンライン上で勤怠管理ができるツールを利用するなどして、労務管理の方法を新たに取り決める必要があります。
・POINT 始業・終業時間の連絡方法を、労使でルール化することが大切。 |
会社に出勤をして業務をする場合、労働者も休憩時間中以外は業務を行っていると思います。ところが、テレワークになると常に業務をしているか使用者側から分からなくなるのはもちろん、育児や介護のため保育園や病院への送迎を日中に行うなど、労働時間中に業務から離れる時間を設けたいというニーズが労働者から寄せられるケースが考えられます。つまり、労働時間中の在席確認のルールを取り決めるとともに、業務から離れる時間(私用の時間)の扱いをどうするかを取り決める必要があります。
・POINT 始業・終業時間の連絡方法と同様、在席確認の方法についても、労使でルール化する。 |
在席確認の方法としては、様々な専用の労務管理ツールがあり、中には(不鮮明な状態の)労働者のデスクトップの画面を閲覧できるものもあるようです。そのようなツールを使って、業務を行っているかを確認するのでもよいと思いますし、電話にいつでも出られる状態にしておいたり、始業・就業のタイミングのほかに休憩明けの時間帯に報告のメールを送るなどの方法もあると思います。労使間でどのような方法で在席確認を行うかを協議して、ルール化するのが良いと思います。
私用の時間を認める場合、以下の二種類の方法が考えられます。
・私用の時間を休憩時間として取り扱う。
→ この場合、本来の休憩時間とは別にさらに休憩時間を取得することになります。在宅でのテレワークであれば通勤時間が無くなりますので、労働者との協議により、始業時刻を繰り上げたり、終業時刻を繰り下げるなどして本来の労働時間の確保を行うという方法が考えられます。始業・終業時刻の調整を行わなければ、ノーワーク・ノーペイの原則から休憩時間分の給与は発生しないことになりますが、労働者のニーズとはマッチしないでしょうから、私用の時間の取り決めを行うのであれば始業・終業時刻の調整はセットで対応する必要が出てくると思います。
この場合、始業・終業時刻を変更することになりますので、その旨を就業規則に記載する必要があります(労基法89条1号、労基法施行規則第5条1項2号)。
・私用の時間を休憩時間ではなく、時間単位の年次有給休暇として扱う。
→ 私用の時間を時間単位の年次有給休暇として扱いますので、休憩時間として取り扱う場合とは異なり、始業・終業時刻の調整は不要となります。
・POINT 業務時間内の私用の時間を認めるか否か、認めるとしてその時間をどのように扱うかについて取り決める必要がある。 私用の時間を休憩時間とするのであれば就業規則の変更が、時間単位の年次有給休暇として扱うのであれば、労使協定を締結させる必要がある。 |
この場合、労使協定の締結が必要となります(労基法39条4項)。
テレワークを導入した場合、休憩の取り扱いについても配慮する必要があります。
会社に出勤している場合、皆さんが同じ時間帯に昼休みを採る会社も多いと思います。これは、労基法で原則として休憩時間は一斉に与えなければならないと定められているからです(労基法34条2項)。
・POINT テレワークを導入する場合、休憩の取り扱いについて、労使協定で労基法34条2項を適用除外にする必要がある。 |
テレワークを導入する場合、休憩時間は各労働者まちまちになりますので、労使協定により34条2項を適用除外にする必要があります。
以上のように、テレワークを導入した場合、出社して業務を行うという従来型の働き方とは異なり、使用者は労働者の労働時間の把握が困難になるため、以上で見たような様々な取り決めをする必要があります。
そこで、事業場外みなし労働時間制を利用して、一定時間を労働時間であるとみなすという取り扱いをする方法もあり得ます。
労基法第38条の2第1項 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。 |
では、事業場外みなし労働時間制とはどのような制度でしょうか。まず、条文を見てみたいと思います。
事業場外みなし労働時間制とは、労働者の具体的な指揮監督下にない状況で労務を行った場合の労働時間の取り扱いに関する規定です。テレワークにおいても、使用者が労働者の「労働時間を算定し難い」場合には、所定労働時間労働したものとみなします。また、通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を労働時間とみなすことができることになります。
では、テレワークを導入する場合に、どのような場合に事業場外みなし労働時間制を利用できるのでしょうか。
・要件1
テレワークが、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
・要件2
テレワークで使用しているパソコンが、使用者の指示によって常時通信可能な状態となっていないこと
→ 例えば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められる場合、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかな場合などが該当します。
・要件3
テレワークが随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
→ ここでいう「随時使用者の具体的な指示に基づいて行われる」に、テレワークの目的、目標、期限などの基本的事項を指示することや、これらの基本的事項について変更を指示することは含まれません。
以上の要件を満たす場合には、「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難」といえ、事業場外みなし労働時間制を採用できます。
なお、その場合、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」の時間数については、労使間の労働協約で定めることになります(労基法38条の2第2項)。
・POINT 要件をすべて満たす場合には、労働協約にて「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を決める必要がある。 |
使用者にとって、労働者の業務の進捗状況が分かりにくくなるというのも、テレワークの特徴です。しかし、業務の進捗状況が分からなければ、ある労働者が仕事を抱え込みすぎて納期に間に合わなかったり、心身の健康に支障をきたす場合もあります。また、労働者間の業務量の均衡が図れず、不公平感が生じる可能性もありますし、業務を分散させることで割増賃金の発生を抑制することにもつながります。
そこで、労働時間の把握とともに、業務の進捗状況の把握も、使用者にとっては重要となってきます。
・POINT 業務の進捗についての連絡の頻度、内容について労使でルール作りをする必要がある。 |