4月8日の各新聞記事において、タクシー会社ロイヤルリムジンが新型コロナウイルスの感染拡大を理由に全社員600名を解雇したという報道がされました。解雇した人数の多さにも驚きましたが、解雇の主な理由として挙げられた「休業手当を支払うよりも、解雇された従業員が雇用保険の失業給付を受けた方がよい」という点にはさらに驚かされました。そもそも、失業給付を受ける方がよいかどうかの判断は各従業員が行うものであって会社が判断するものではありません。そのため、この報道を聞いたときに、このような理由で解雇することが許されるのかと驚きました。
また、今回は一種の整理解雇にあたりますが、整理解雇は会社そのものを守るためにやむを得ず人員を整理し人件費をカットするために行われるものです。しかしながら、全社員を解雇してしまってはそもそも会社としての存続を否定するようなものです。そのような意味で今回のロイヤルリムジンの解雇は、何とも不可解な点をいくつも感じました。そして、4月16日、案の定、元従業員から地位確認を求める仮処分の申立てがなされたことが報じられました。
では、今回、ロイヤルリムジンとしては解雇するためにどのような手順を踏むべきだったのでしょうか。
まずは、早期退職者の希望を募ることです。退職金の支払いの確保と就職先支援を約束することで早期退職者を募るべきでした。今後の賃金が歩合も含めて大幅に減額されることが予想されることや、退職金そのものの支払いが履行されるか疑わしいことを十分説明した上で、納得の上早期退職してもらうことは重要です。次に、退職勧奨です。この退職勧奨を行う際に、休業手当を受けるよりも失業給付を受けた方が有利である点を十分に説明をし納得をしてもらった上で退職してもらうべきでした。つまり、退職勧奨で説明すべき事項を、解雇の理由としてしまった点に最大の問題点があったように思います。
そして、退職勧奨を行った上でそれでも十分な人員整理ができないときに、はじめて解雇を行うべきでした。解雇するためには企業としてできる限りの解雇回避努力を行ったかどうかが重要となるからです。
このような解雇回避努力を怠ったロイヤルリムジンには相当に厳しい司法の判断がされるのではないかと思われます。先にも説明したとおり、休業手当と失業給付どちらが有利かなどというのは、従業員が決めることです。その選択肢を奪って一方的に解雇をしてしまったロイヤルリムジンの手法には甚だ疑問が残るばかりです。
今後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い人員削減を検討しなければならない企業も増えてくるだろうと思います。その際、安易に解雇すれば訴訟リスクは避けては通れません。今後、新型コロナウイルスに起因した初の労働問題としてその行方に注目していきたいと思います。