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「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)」とは、職場における性的な言動によって、労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを指します。
介護現場における「職場」とは、施設内に限られません。訪問介護先の利用者宅や送迎車内など、職員が業務を行うすべての場所が含まれます。
厚生労働省の指針によると、加害者は、上司・同僚に限られず、顧客や患者、その家族も性的言動の行為者になり得るとされています。介護現場では、利用者や利用者家族からの言動も事業者が対応すべきセクハラに当たります。
対象となる「労働者」には、雇用形態を問わず、すべての職員が含まれます。正社員の他、パートタイマー、契約社員、派遣労働者も対象です。
セクハラには大きく分けて「対価型」と「環境型」の2つの類型があります。
性的関係の要求を拒否したことなどを理由に、労働者が解雇、降格、減給、不利益な配置転換などの不利益を被る類型です。
利用者による対価型セクハラの具体例としては、職員に性的な要求を拒否された利用者が腹いせに事業所へ苦情を申し立て、事業所がその苦情を鵜呑みにして職員を減給や不利益な配置転換にしたような場合が考えられます。
この場合、不利益な扱いをしたのは事業者自身となります。利用者や家族から職員に対する苦情を受けたときは、事実関係を丁寧に確認することが欠かせないと思います。
性的な言動によって就業環境を不快なものとなり、労働者が能力を発揮するうえで看過できない程度の重大な支障が生じる類型です。介護現場のセクハラの多くは、こちらの類型に当たります。
例えば、介助中に利用者が職員の身体に繰り返し触れる、訪問のたびに卑猥な話題を持ち出す、居室にわざとヌード写真を貼るといった行為により、職員が苦痛を感じ、業務に集中できなくなるような場合です。
厚生労働省の補助事業として実施された調査(平成30年度「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」、2019年公表)では、具体的なセクハラとして次のような行為が挙げられています。
• 身体への不必要な接触
• 性的な発言を繰り返す
• 性的な関係の強要
• 執拗な食事やデートへの誘い
• アダルトビデオやヌード写真を見せる
セクハラは、職員の人格権を侵害する不法行為です。行為の態様によっては、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪といった犯罪にも当たり得ます(2023年施行の刑法改正で、従来の「強制わいせつ罪」などから改称されました)。
利用者や家族からのセクハラは「認知症だから仕方ない」「大ごとにしたくない」と現場任せにされやすい問題ですが、セクハラが起こった際には、施設および職員は適切に対応することがとても重要です。
事業者は、職員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務、労働契約法5条)を負っています。利用者や家族からのセクハラも、現場の職員任せにせず、組織として対応する必要があります。
セクハラに当たるかどうかは、受け手の感じ方を重視しつつ、平均的な労働者の感じ方を基準に判断されます(被害者が女性であれば平均的な女性労働者、男性であれば平均的な男性労働者)。
もっとも実務上は、「この程度ならセクハラではない」と事業者が先回りして判断するのは危険です。からかいのような軽い性的言動でも、職員が不快だと訴えたのであれば、放置せずに事業所はセクハラ事案として対応するべきです。
職員から報告を受けたら、まず話を否定せずに受け止めます。
「気にしすぎだ」「うまくかわして」といった対応は、二次被害になりかねません。
いつ、どこで、誰から、どのような言動があったかを詳しく確認し、記録に残します。
後の利用者等に対する注意や契約解除を実施する根拠にもなるため、記録は最も重要な工程となります。
認知症などの症状による言動かどうかを、主治医やケアマネジャーとも連携して確認します。症状によるものであれば、対応の中心はケアの方法の見直しになります。
ただし、症状によるものであっても、職員を守る措置が不要になるわけではありません。
被害を受けた職員の心身の状態を確認し、必要に応じて担当の変更、複数人での対応、産業医などによるメンタルケアを行います。
ケアマネジャーや地域包括支援センターにも報告・相談したうえで、利用者・家族に対して行為をやめるよう注意します。
改善されない場合は、書面での警告、最終的には契約解除もあり得ることを伝えます。
介護サービスの運営基準では、正当な理由なくサービスの提供を拒むことが禁止されています。そのため、契約解除には次のような手続が求められます。
①注意や書面での警告など、段階的な対応を経ていること
②その経過を記録として残していること
③ケアマネジャー等と連携し、他の事業所の紹介など利用者がサービスを受けられなくならないように配慮していること
事業者が解除の進め方を誤ると、利用者側から損害賠償を請求されたり、行政から指導を受けたりするおそれがあります。「警告書」の文面や解除のタイミングにつきましては、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
予防策は、(1)契約・文書による抑止、(2)組織的な体制整備、(3)現場での予防措置、の3つの方法で進めます。いずれも、実際に被害が起きたときに「事業者としてなすべきことをしていた」と説明できる根拠にもなります。
セクハラに当たる具体的な行為を列挙し、改善が見られない場合には事業者が契約を解除できる旨の条項を設けます。条項が曖昧ですと、いざというときに解除の根拠として使うことができませんので、弁護士にご確認いただければと思います。
②契約時にリーフレットで説明する
セクハラが不同意わいせつ罪などの犯罪として処罰され得ること、契約解除の可能性があることを明記したリーフレットを渡し、利用者や家族の意識づけを図ります。
③「できること・できないこと」を明確にする
サービスの範囲を利用者・家族に周知し、契約外の例外を作らないことで、過度な要求やセクハラを誘発する関係性を防ぎます。
セクハラを許さない事業所の基本方針を定め、職員・利用者・家族に周知します。
そのうえで「セクハラ発生時の対応マニュアル」を作成して職員や役職者が迷わず動けるようにしたり、現場の職員がどんな小さな出来事でも報告・相談できる窓口を設けたり、具体的な場面を想定した職員研修を実施したりします。
アンケートなどで現場の実態を事業者が定期的に把握し対応する機会を設けることも重要かと思います。
利用者の過去の言動などの情報を、ケアマネジャー等から事前に共有してもらいます。
リスクが高い利用者には、複数人での訪問や同性介助を検討し、被害の発生を未然に防ぎます。
2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法によって、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)から労働者を守るための措置が、すべての事業主に義務づけられました。2026年10月1日から全ての事業主に義務化され「方針の明確化」「相談体制の整備」「事後対応」「悪質事案への対処方針」などの雇用管理上の措置を講じる必要があります。
介護事業者にとって「顧客」に当たるのは利用者や家族です。セクハラ対策とあわせてカスハラ対策の視点でも就業規則やマニュアルを見直しておくことが求められます。ご不明点やご不安なことがございましたら、お気軽に弁護士にお問い合わせください。
利用者によるセクハラを放置すると、職員の心身だけでなく、事業所の経営と法的な立場にも深刻な影響が及びます。
セクハラ被害を受けた職員は、強い精神的苦痛を感じるだけでなく、うつ病などの精神疾患を発症するリスクがあります。訪問介護では、特定の利用者宅への訪問を避けるようになり、最終的に離職に至るケースも少なくありません。
また、事業者のケアが不十分な場合、ストレスを抱えた職員による利用者への虐待リスクが高まるという「権利侵害の悪循環」が生じるおそれもあります。人手不足が続く介護業界において、職員を守ることは人材の定着に直結します。
職員がセクハラを受けていると知りながら放置し、その結果職員がけがをしたり精神疾患を発症したりした場合、事業者は安全配慮義務(職場環境配慮義務)違反として多額の損害賠償責任を負う可能性があります。賠償額には、労災保険ではカバーされない慰謝料や逸失利益の差額などが含まれることもあります。
利用者によるセクハラが常態化すると、組織全体の士気が下がり、ケアの質に悪影響を及ぼします。
対策を講じない事業所の姿勢は、職員のクチコミや採用市場を通じて広がり、求人難や他の利用者・家族からの信用低下につながりかねません。
職員を守ることは、経営を守ることでもあります。セクハラをした利用者や家族に対しては、段階を踏んだ抗議、そして最終的には契約解除を含む毅然とした対応を検討することが重要です。
利用者からのセクハラ対応は「職員を守る義務」と「正当な理由なくサービスを拒めない立場」の板ばさみになりやすく、事業者だけで判断するのが難しい問題です。問題が起きてからあわてて弁護士を探すよりも、普段から事業所の実情を知る顧問弁護士がいた方が、初動から迷わずに対応できて良いと思います。
弁護士に、調査の進め方、記録の残し方、利用者・家族への伝え方、被害に遭った職員への聴き取り方など疑問点や不安なことを速やかに相談して確認できます。
弁護士がセクハラをした利用者や家族への段階的な対応から契約解除まで代理することによって、法的に問題のない手順で交渉を進められます。
弁護士によるハラスメント条項や解除条項等についてのリーガルチェック・修正提案を受けることによって、使い勝手の良い契約書・重要事項説明書・就業規則に改善できます。
弁護士による「ハラスメント対策セミナー」など、事業所の実情やニーズに合わせた研修を実施できます。
弁護士法人森大輔法律事務所は、2015年に企業・経営者側に特化した企業法務メインの法律事務所としてスタートしました。業種も規模もさまざまな100社以上に及ぶ顧問先のリーガル・コンサルタントとして数多くの企業事例を取り扱い、法律の枠を超えた「経営を守る生きた知恵」をもご提供している弁護士事務所です。
我々は、ハラスメントや労務トラブルから介護事業者様をはじめとする企業の経営を守りたいという思いから、ハラスメント・労務問題に力を入れて取り組んでおります。
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お困りのことがありましたら、どうぞお気軽にお問合せください。
• 利用者によるセクハラ・カスハラへの対応に悩んでいる
• 問題を起こした利用者との契約解除を検討しているが、進め方に不安がある
• 契約書や重要事項説明書にハラスメント条項がない、または見直したい
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