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副業・兼業を希望する労働者が増加する一方で、就業規則で副業を禁止している企業も依然として多く存在します。そのような企業において、社員が無断で副業を行っていることが発覚した場合、「解雇できるのか?」という疑問を抱く経営者・人事担当者は少なくありません。
しかし、日本の労働法制は、諸外国と比較して解雇規制が非常に厳しいことで知られています。労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めており、これを「解雇権濫用法理」といいます。
つまり、副業禁止規定に違反したという事実だけをもって、直ちに解雇が認められるわけではありません。
解雇が有効と認められるためには、
①客観的に合理的な理由があること
②解雇が社会通念上相当であること
という二つの要件を満たす必要があります。本記事では、副業禁止違反を理由とした解雇の可否と実務上の対応方法について、弁護士の視点から詳しく解説します。
副業禁止違反を理由に社員を解雇する場合、主に以下の方法が考えられます。ただし、いずれの方法においても、後述する注意点を十分に踏まえたうえで慎重に進めることが不可欠です。
懲戒解雇は、企業が労働者の重大な非行・違反行為に対して行う最も重い懲戒処分です。副業禁止規定への違反が「重大な規律違反」に該当すると判断される場合に選択されます。
●就業規則に副業禁止規定および懲戒解雇事由として副業禁止違反が明記されていること
●違反行為が本業の業務に具体的な支障をきたしていること
●競業他社への就業や機密情報の漏洩など、企業の利益を著しく損なう行為を伴っていること
●弁明の機会を与えるなど適正な手続きを踏んでいること
裁判例では、単に副業をしていたというだけで懲戒解雇を有効と認めるものは少なく、上記のような具体的な害悪の発生が認められる場合に限って有効とされる傾向があります。
普通解雇は、懲戒解雇とは異なり、労働者の非違行為を懲らしめる目的ではなく、労働契約の維持が困難な客観的事情を理由とする解雇です。副業による業務遂行能力の低下、労務提供義務の不履行、信頼関係の破壊などを理由として行われます。
懲戒解雇と比較すると、普通解雇の方が適用のハードルはやや低いものの、それでも「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められることに変わりはありません。また、普通解雇の場合は原則として30日前の予告(または予告手当の支払い)が必要です。
いきなり解雇するのではなく、まず口頭注意・書面による警告・減給・出勤停止といった段階的な懲戒処分を経て、それでも改善が見られない場合に解雇を選択するという対応が、実務的にも法的にも最も安全な方法です。段階的な対応を取ることで、解雇の「相当性」を補強することができます。
副業禁止違反を理由とした解雇を行う際には、以下の点に特に注意が必要です。
裁判所は、副業禁止違反が解雇事由となるかどうかを判断する際に、副業の内容・規模・態様を重視します。具体的には以下のような事情が考慮されます。
●競業関係にある会社での就業か否か(競業避止義務違反)
●会社の機密情報や顧客情報を利用しているか否か
●副業により本業の労働時間・業務効率に支障が生じているか否か
●副業の収入・規模が本業と比べてどの程度か
●会社の名誉・信用を傷つける副業か否か
たとえば、休日に行うブログ執筆やフリマアプリでの販売程度では解雇は困難ですが、競合他社でのアルバイトや、会社の顧客を奪うような副業であれば、解雇が認められる可能性が高まります。
解雇を行う前には、必ず当該社員に対して弁明の機会を与えることが必要です。これは手続的正義の観点から重要であり、弁明の機会を与えずに行った解雇は、実体的な理由が正当であっても手続き上の瑕疵として問題となる場合があります。弁明の機会付与に際しては、その日時・内容・社員の回答を書面で記録に残しておきましょう。
「副業をしていた」という事実を客観的に証明できる証拠を確保しておくことが重要です。たとえば、副業先との雇用契約書、給与明細、SNSへの投稿、取引先からの情報提供など、具体的な証拠を収集・保全してください。証拠なく解雇を行うと、後に解雇無効の訴えを起こされた際に会社側が不利な立場に立たされます。
懲戒解雇を除く普通解雇の場合、労働基準法第20条に基づき、解雇する30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。これを怠ると、解雇自体の効力とは別に、労働基準法違反となる場合があります。なお、懲戒解雇の場合でも、労働基準監督署長の除外認定を受けない限りは予告手当が必要とされる場合もあるため、注意が必要です。
解雇された社員が「不当解雇」として労働審判や訴訟を提起するリスクは常に存在します。解雇が無効とされた場合、会社は解雇期間中の未払い賃金(バックペイ)の支払いを命じられることがあります。そのため、解雇を実施する前には必ず弁護士に相談し、解雇の有効性についての法的見解を確認することを強くお勧めします。
副業禁止違反を有効な解雇事由とするためには、就業規則の整備が前提条件となります。就業規則が不備な状態では、たとえ副業が会社に損害をもたらすものであっても、法的に有効な解雇を行うことは困難です。
●副業・兼業の禁止または制限に関する規定
「許可なく他の会社等の業務に従事してはならない」などの明確な禁止規定を設ける。
●懲戒事由としての明記
懲戒処分の対象となる行為として、副業禁止規定への違反を具体的に列挙する。
●懲戒処分の種類と手続き
戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇などの処分の種類と、それぞれの手続きを明確に定める。
●副業許可制の規定(推奨)
一律禁止ではなく、事前申請・許可制を採用することで、現実的な運用と法的リスクのバランスをとる。
また、就業規則を策定・変更した場合は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴いたうえで、所轄の労働基準監督署に届け出るとともに、社員への周知徹底が必要です(労働基準法第89条・第90条)。周知されていない就業規則は法的効力が認められない場合があります。
なお、2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、2022年に改定しています。このガイドラインは、副業・兼業を原則禁止から原則容認へと方針転換を促すものであり、就業規則の整備に際してはこのガイドラインの趣旨を踏まえた対応が求められます。
ある製造業の会社において、社員が競合他社に無断で就職していたことが発覚しました。当該社員は本業で得た技術情報や顧客情報を副業先でも活用していた疑いがあり、会社は就業規則の競業避止規定および副業禁止規定に基づき懲戒解雇としました。裁判所は、競業行為により会社の利益が具体的に侵害されるおそれがあること、かつ機密情報の流用が認められることを理由として、懲戒解雇を有効と判断しました。
ある会社の社員が、深夜・早朝の長時間にわたる副業(飲食店での接客業)を行った結果、本業において遅刻・欠勤を繰り返し、業務効率が著しく低下しました。会社が複数回にわたり注意・警告を行ったにもかかわらず改善が見られなかったため、普通解雇としました。裁判所は、副業の態様と本業への支障の程度、そして会社の再三の警告を考慮し、解雇を有効と認めました。
ある会社の社員が、休日に個人でネットショップを運営していたことが発覚しました。会社はこれを就業規則の副業禁止規定違反として懲戒解雇としましたが、裁判所は、当該副業は会社の業務と無関係で競業性もなく、本業への支障も全く認められないとして、懲戒解雇は解雇権の濫用であり無効と判断しました。
就業規則に副業禁止の明文規定がなかった会社において、社員の副業が発覚し、会社が口頭での注意後すぐに解雇を行いました。裁判所は、就業規則上の根拠がないこと、および段階的な対応なしに即時解雇した点に合理性がないとして、解雇を無効と判断しました。就業規則の整備の重要性を示す事例といえます。
これらの事例から明らかなように、副業禁止違反を理由とした解雇の可否は、個々の事案の具体的事情によって大きく異なります。安易な解雇は訴訟リスクを高めるため、必ず専門家である弁護士に相談のうえで対応策を検討することが重要です。
副業禁止違反を行った社員への対応は、日本の厳格な解雇規制を踏まえると、非常に慎重な判断が求められます。以下のような場合には、早期に弁護士へのご相談をお勧めします。
● 副業禁止違反の社員に対してどのような処分を下すべきか判断に迷っている
● 就業規則が整備されているか、現行の規定で解雇が可能かどうか確認したい
● 解雇を実施したが、社員から「不当解雇だ」と主張されている
● 社員が競業他社や取引先で副業をしており、会社の利益が脅かされている
● 解雇以外の適切な対応方法(降格・減給など)についても検討したい
森大輔法律事務所では、問題社員対応をはじめ、企業法務に関するご相談に対して数多く対応してきた実績がございます。
副業を行う問題社員対応に関して、企業法務に特化した弁護士が、就業規則の整備・見直しから、具体的な懲戒手続きの進め方、万が一の労働審判・訴訟対応まで、労務問題のあらゆる局面で幅広くサポートすることが可能です。これまでの豊富な経験を活かし、各企業の状況に合わせた最適な解決策を提案いたします。
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