MENU

債権回収における仮差押えとは?特徴や手続きの流れについて弁護士が解説

企業経営において、売掛金や貸付金といった債権の回収は非常に重要です。売掛金などが滞ると資金繰りに悪影響を及ぼし、最悪倒産に至る可能性もあります。本コラムでは、企業法務の観点から、債権回収において取り得る手段の一つである、仮差押えの特徴や手続きの流れについて弁護士が解説します。

仮差押えの重要性と基本

債権回収における仮差押えとは?

債権回収において、訴訟中に債務者が財産を隠蔽・処分すると、勝訴判決を得ても回収できない事態に陥ります。これを防ぎ、債権回収を確実にするための重要な手段が「仮差押え」です。

仮差押えは、金銭債権を保全するため、債務者の特定の財産(預貯金、不動産、動産など)を、裁判所の手続きによって一時的に差し押さえる制度です。民事保全法に基づき、本訴訟提起前や途中で債務者の財産隠匿・処分を防ぐ目的があります。仮差押命令が発令されると、債務者はその財産を自由に処分できなくなり、債権者は将来の強制執行に備えることができます。これにより、債権回収の可能性が飛躍的に高まります。

なぜ仮差押えが必要なのか?その法的根拠と役割

仮差押えは、その後の強制執行を実効的にするために不可欠な手続きです。日本の民事訴訟制度では、確定判決などの「債務名義」がないと強制執行はできませんが、訴訟手続きには時間がかかります。この間に債務者が財産を隠したり、売却したりするリスクがあります。例えば、預金を引き出したり、不動産を売却したりすれば、債務名義を得ても差し押さえる財産がなくなり、回収不能となってしまいます。

これを防ぐのが仮差押えの役割です。法的根拠は民事保全法にあり、将来の強制執行が不能になることを防ぐ「保全措置」です。仮差押命令により、債務者の財産処分権が制限され、事実上財産を動かせない状態にできます。これにより、債権者は訴訟の長期化や債務者の財産隠しによる回収不能リスクを大幅に軽減し、債権回収の確実性を高めることができるのです。
また、仮差押えをすることで債務者は財産の自由な処分ができなくなるため、仮差押えを解除してもらおうと連絡をしてくるケースもあります。このような状況になれば任意に支払ってもらうことが可能となり、早期解決を図ることも可能となります。この点も仮差押えの重要な役割と言えます。

混同しやすい「仮処分」との違い

仮差押えと「仮処分」は、どちらも「保全」を目的としますが、対象と目的が異なります。

仮差押えは、金銭債権を保全するために行われ、債務者の財産を一時的に凍結します。売掛金や貸付金など、金銭の支払いを求める債権がある場合に利用され、預貯金、不動産、動産などが対象です。

一方、仮処分は、金銭債権以外の権利や法律関係の現状維持、または暫定的な解決を目的とします。「係争物に関する仮処分」は物の現状変更を防ぎ(例:不動産売却防止)、 「仮の地位を定める仮処分」は紛争中の法律関係を暫定的に定めます(例:解雇無効訴訟中の賃金支払い)。
まとめると、仮差押えは「金銭回収のため」に「財産を凍結」し、仮処分は「金銭以外の権利・地位保全のため」に「行為を禁止・暫定状態を定める」ものです。

仮差押えの対象となる財産と実行のタイミング

仮差押えの対象になる財産

仮差押えは、債務者の様々な財産を対象とできます。債権回収を確実にするには、債務者がどのような財産を保有しているか把握し、最も効果的な財産を差し押さえることが重要です。
主な対象は以下の通りです。

不動産

土地や建物は価値が高く、登記で所有者が明確なため有力です。登記により仮差押えの事実が公示され、事実上売却などが困難になります。多額の債権回収に特に有効です。

債権

債務者が第三者に対して有する金銭債権です。典型例は預貯金債権(金融機関に引き出しを禁止させる)や、取引先に対する売掛金債権(取引先に債務者への支払いを禁止させる)です。賃料債権なども含まれます。

動産

不動産以外の有体物で、自動車、機械設備、商品などです。執行官が実際に差し押さえます。隠匿・処分が容易な場合もありますが、高価な動産であれば有効です。
これらの財産以外にも、株式やゴルフ会員権なども対象となり得ます。どの財産を対象とするかは、債務者の財産状況や価値、費用、時間を総合的に考慮して判断します。

仮差押えが特に有効なケース

仮差押えが特に有効なのは、以下のようなケースです。

債務者が財産隠しや散逸の兆候を見せている場合

債務者が不動産の安値売却、高額預金の引き出し、事業縮小などを行う前に、迅速に対応をすることで財産の散逸を防げます。

債務者が遠隔地に居住している、あるいは連絡が取りにくい場合

交渉が困難なケースでも、裁判所の命令に基づき強制的に財産を保全できます。

債務者に対して心理的なプレッシャーをかけたい場合

仮差押えは債務者の財産を自由に動かせなくするだけでなく、信用失墜のリスクもあり、任意弁済や交渉に応じる強力な動機付けとなります。
仮差押えにはコストやリスクも伴いますが、これらの状況ではそれらを上回るメリットが得られる可能性が高く、債権回収の成功確率を高めます。

仮差押えを検討すべきタイミング

仮差押えは迅速に対応を行うことが極めて重要です。仮差押えを検討すべきタイミングは、債務者の財産状態が悪化する兆候が見られた際です。

具体的には、以下のような状況が挙げられます。

・支払いの遅延や滞納が頻繁になる、または金額が増加する
・債務者からの連絡が途絶える、または返信が遅くなる
・債務者の風評や信用情報が悪化する
・債務者が事業を縮小・閉鎖する動きを見せる
・債務者が特定の財産を処分しようとしている情報がある

これらの兆候が見られたら、債務者が財産を隠匿・譲渡する前に、速やかに仮差押えの申し立てを検討する必要があります。時間が経てば、債務者の財産状況は変化し、仮差押えの成功率が低下するリスクが高まります。弁護士に相談し、迅速な判断と行動をすることが、債権回収における仮差押えの成功につながります。

仮差押えの手続きの流れと注意点

弁護士に相談・申し立ての準備

仮差押えを検討する際は、まず経験豊富な弁護士に相談すべきです。弁護士は、債権の状況、債務者の情報、財産情報をヒアリングし、債権の存在や証拠を確認します。
次に、弁護士は仮差押えの「保全の必要性」(将来の強制執行が困難になる恐れがあるか)と「被保全債権の存在」(請求できる債権が明確か)を検討します。
そして最も重要なのが、債務者の財産調査です。預金口座、不動産、自動車、売掛金債権など、可能な限り財産を特定します。弁護士は登記簿謄本や法人登記事項証明書などを確認し、必要に応じて調査を進めます。
これらの情報が揃ったら、弁護士は裁判所に提出する仮差押命令申立書を作成します。申立書には請求債権の内容、仮差押えの理由、対象財産を詳細に記載し、証拠書類を添付します。専門知識が必要なため、弁護士に依頼することが不可欠です。

裁判所の審理と担保金

仮差押えの申し立てが受理されると、裁判所による審理が開始されます。提出された申立書と証拠に基づき、「保全の必要性」と「被保全債権の存在」が厳格に審査されます。必要に応じて、債権者(または弁護士)に対する審尋(面談)が行われることもあります。
裁判所が仮差押えを認める場合、通常、担保金の供託を命じられます。担保金は、仮差押えによって債務者が不当な損害を被った場合に備えて、債権者が裁判所に預ける金銭です。請求債権額の 1 割から 3 割程度が目安ですが、状況により変動します。担保金は現金で供託するのが一般的で、仮差押えが正当と判断されれば後に返還されます。担保金が供託されなければ、仮差押命令は発令されません。

仮差押命令の発令と執行

裁判所が担保金供託を確認し、債権者の主張を認めると、仮差押命令が発令されます。この命令は、債務者に対し特定の財産の処分を禁止するものです。命令は、具体的な「執行」手続きを経て初めて効力を発揮します。
執行手続きは専門知識を要するため、弁護士のサポートが不可欠です。債務者への通知は執行後に行われることが多く、債務者が事前に知ることにより財産を隠匿することを防ぐことができます。

仮差押え後の本訴提起と債権回収

仮差押えは一時的な保全措置であり、これだけでは債権回収は完了しません。実際に回収するには、原則として本訴訟を提起し、勝訴判決を得るか和解成立などにより債務名義を取得する必要があります。
仮差押え完了後、通常 30 日以内に本訴を提起する必要があります。本訴訟では、債権者は債権の存在と金額を証拠に基づき立証します。弁護士は、訴訟準備、訴状作成、証拠収集、期日出廷、交渉など、訴訟の全般を代行します。
仮差押えによる心理的プレッシャーから、債務者から和解の申し入れがあることも多く、その場合には有利な条件での和解交渉を進めることも可能です。
最終的に債務名義が取得できれば、仮差押えで保全された財産に対して強制執行を行うことができます。預金なら金融機関から直接支払いを受け、不動産なら競売を経て、動産なら売却代金から回収します。
このように、仮差押えは債権回収の流れの一部に過ぎず、本訴提起から強制執行までの一連の手順を経て初めて完了します。これらの専門的な対応には、弁護士の継続的なサポートが不可欠です。

仮差押えを弁護士に依頼するメリット

迅速かつ確実な手続きを実現

債権回収における仮差押えは、債務者が財産を隠匿・散逸させる前に、いかに迅速に手続きを進めるかが鍵です。弁護士に依頼することは、迅速かつ確実な手続きを実現するための最善策です。
弁護士は、仮差押えに必要な法律知識と経験を豊富に有しており、裁判所が認めやすい申立書を効率的に作成できます。また、裁判所からの質問や要求にも的確に対応し、審理の滞りを防ぎます。担保金供託や執行手続きについても一貫してサポートし、手続きを円滑に進めることができます。
自社で対応すれば、知識不足や不備で却下されるリスクがあり、貴重な時間を無駄にする可能性があります。弁護士に依頼することで、リスクを回避し、正確かつ迅速に手続きを進め、債権回収の成功確率を高めます。

複雑な書類作成や裁判所とのやり取りを代行

仮差押えの手続きは、専門的な法律事務を伴い、特に書類作成や裁判所とのやり取りは非常に複雑です。弁護士に依頼する大きなメリットは、これらの複雑な書類作成や裁判所とのやり取りをすべて代行してくれる点です。
弁護士は、仮差押え命令申立書に必要な法律要件を満たし、保全の必要性や債権の存在を裏付ける証拠を適切に選定・添付し、論理的かつ説得的に記述します。また、多岐にわたる証拠書類の収集・整理も行います。
申し立て後も、裁判所からの追加資料要求や審尋に迅速かつ的確に対応し、手続きの遅滞を防ぎます。担保金供託手続きなども含め、弁護士が責任を持って代行することで、企業は本業に集中しながら、確実に手続きを進めることができます。

債務者への心理的プレッシャーと交渉の有利化

仮差押えは、単に財産を保全するだけでなく、債務者に対して強力な心理的プレッシャーを与え、その後の交渉を有利に進めるという効果があります。弁護士が介入することで、この効果を最大限に引き出せます。
弁護士からの仮差押え申し立ての通知、または命令発令自体が債務者に大きな衝撃を与え、財産が凍結されることで事業活動や私生活に支障が生じることを認識し、これまでの態度を一変させて、真剣に問題解決に取り組ませる動機付けとなります。
弁護士が介入することで、債務者は「本気で債権回収に乗り出している」と認識し、安易なごまかしが通用しないと理解します。これにより、早期解決に向けて動き出す可能性が高まります。この心理的プレッシャーは、和解交渉において債権者に有利な状況を作り出すことが期待できます。仮差押えは、債権回収を成功に導くための強力な交渉ツールとしても機能します。

債権回収に関してお困りの際は、森大輔法律事務所まで

企業経営において、未回収債権は資金繰りを圧迫する深刻な問題です。債務者が支払いに応じない場合、迅速かつ適切な仮差押えの措置が債権回収の成否を分けます。
しかし、仮差押えは専門知識と迅速な対応が求められるため、企業単独では大きな負担とリスクを伴います。
森大輔法律事務所は、債権回収に関する豊富な経験と実績を有しております。お客様の状況を詳細にヒアリングし、財産調査を行った上で、仮差押えの必要性を的確に判断します。複雑な申立書作成から裁判所対応、担保金供託、発令・執行、さらには本訴提起から最終的な強制執行まで、債権回収の一連の手続きを迅速かつ確実に遂行いたします。
未回収の債権でお困りの企業の経営者の方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が最適な解決策をご提案し、債権回収のサポートをさせていただきます。まずはお気軽にお問い合わせください。

【お問合せはこちら】

The following two tabs change content below.

森大輔

2009年の弁護士登録以来、企業問題に取り組む。森大輔法律事務所を開所し、労働分野や広告、景品表示案件を中心に多くの顧問先をサポートしている。講演実績は多数あり、企業向け・社会保険労務士向けの労務問題セミナーを定期的に開催している。

NEWS & TOPICS 新着情報