長時間労働や生徒・保護者への対応で、精神的ストレスを抱える教職員は数多くいますが、学校側で教職員が快適に働ける環境を整備することができているケースは決して多くないのが実情です。良質な教育体制を維持するためにも、学校側は教職員のメンタルヘルス不調を防止する対策を取ることが重要です。
そこで本記事では、教職員のメンタルヘルスを守るために学校側が知っておくべきことや対応策について解説します。
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教職員のメンタルヘルス悪化の要因として、長時間労働は大きな影響を与えていると考えられます。教職員は、一般的な社会人と比較してもかなりの長時間労働をしていることが現状です。終業後の残業や部活動の監督などで、過労死ラインとされている月80時間の残業を超えている人も少なくありません。教職員は長時間労働によって、精神的にも肉体的にもかなり負荷がかかっているといえるでしょう。
教職員同士のハラスメントも、学校において特に多い労務問題です。生徒指導や授業をするにあたって、教職員同士のコミュニケーションは不可欠ですが、職位が高い教職員が自分より低い教職員にパワハラやセクハラなどを行う事案は少なくありません。職員室内での関係性や生徒への影響を気遣って、ハラスメントについて言い出しづらいと感じる教職員も多く存在します。このようにして、継続的なハラスメントを受け続けることによって精神的に疲弊してしまう事態は珍しくありません。
教職員は、生徒や同僚だけでなく、保護者・PTA等への対応もしなければいけません。
保護者の中には、子どもを守ろうとして強気な態度を示す人も多いです。
・電話で長々とクレームを入れる
・面談で録音を求める
・自分の意見に対する回答を書面で求める
・面談でかなり長く話す
保護者側も悪意がある人ばかりではありません。しかし、教職員は保護者等との関係悪化を避けるために、かなり気を遣った対応をすることが多いです。そして、教職員が保護者への対応によって精神的に疲弊してしまうことがあります。
教職員にとって快適な労働環境を整備することが、教職員のメンタルヘルスを守ることにつながります。
・長時間労働是正の呼びかけ
・勤務状況のチェック
・定期的なハラスメント調査
・就業規則等のルール整備
学校側はこのような対策を定め、管理指導者に改善を進めさせましょう。さらに長時間労働については、増員などを含めた人員計画の策定も視野に入れる必要性もあります。
教職員のメンタルヘルスを安定させるために、相談体制を構築することも非常に重要です。メンタルヘルスの悪化は長期間の負荷によって症状が現れることが多いため、相談しやすい窓口があれば早期発見にもつながります。相談体制を整備する際は、相談した情報が確実に保護されるという信頼をつくることが必要です。学校内という限られたコミュニティの中で誰かに相談することに不安を持つ人も多いですが、安心して話ができる体制をつくらなければなりません。したがって、外部の相談窓口と提携するということも有効な手段です。
教職員のメンタルヘルスを守るために学校がどのような対策を行っているのか、自身では何に気をつければいいのかを伝える研修を定期的に行いましょう。ストレスマネジメントによって自身の不調を定期的にチェックし、メンタルヘルスをある程度管理することは重要です。また、ハラスメントなどへの理解を深めることで、職場環境の改善にもつながります。
教職員のメンタルヘルス不調によって、仕事への集中力が低下し、結果として教育の質も低下することがあります。授業中のミスだけでなく、生徒から目を離すタイミングが増えてしまうことで、生徒らの安全確保にも悪影響を与える可能性は高いといえます。
メンタルヘルスの不調で休職となってしまうと、その人の業務を引き継ぐ周囲の負担が増加します。授業の代役や部活の補助など、一人欠けてしまうことの影響は大きいです。周囲の人がカバーをする必要があるため、他の教職員のメンタルヘルスにも影響を与えてさらなる休職者を生む事態になりかねません。
教職員に限りませんが、職場でメンタルヘルス問題が広がれば、結果的にはスタッフの士気低下や離職率の増加を引き起こすことになりかねません。教員一人の採用・育成にかかるコストは大きいため、潜在的な影響は計り知れないでしょう。
メンタルヘルス不調を訴えたにもかかわらず、学校側が適切な対処をしない場合、職員から訴訟トラブルに発展するリスクもあります。損害賠償金を払えば解決するというわけでなく、法的トラブルに発展すると学校の評判や信頼を落としてしまう可能性があるでしょう。実際に問題が起こった場合は、速やかに対処することが重要です。
教職員がメンタルヘルスの不調に陥った場合、無理を重ねないように休職を勧めることが有効な選択肢です。ただし復職にあたって、主治医の診断書に「短時間であれば就労可能」と記載されていても、短時間の労務提供では学校の業務をこなすには不十分であることに注意が必要です。学校では、復帰するならばフルタイムで出勤することが望まれます。そのため、連続的な欠勤と出勤を繰り返すことや、出勤しても実際には仕事ができないこともよくあるパターンです。休職期間や復職の基準については学校法人側が決めるべきことであるため、明確に示すようにしましょう。
休職中、教職員は大きな不安を感じていることが一般的です。休職する教職員に対しては十分なケアを心がけなければなりません。休職の制度やメンタルマネジメントについては、休業開始時において丁寧に説明することが重要です。その後の手続きにおける安心感にもつながり、教職員との信頼関係にもいい影響を与えるでしょう。日ごろの研修等をしっかり行うことで、メンタルヘルス問題による休職について理解を啓発しておくことも重要です。
基本的に、メンタルヘルスの不調を理由とした解雇を行うことは難しいです。解雇には社会通念上の合理的な理由が求められるため、簡単に解雇してしまっては解雇権乱用を訴えられるトラブルに発展しかねません。ただし、休職後の復帰がどうしても難しく、業務遂行が困難な場合には、自然退職や辞職となることも多いです。
教職員のメンタルヘルスを守るために、学校側は労働環境や相談体制の整備を行い、メンタルヘルスに関する理解を啓発することが重要です。そして、もし教職員からメンタルヘルス不調を相談された場合は、休職や復職など、職員一人ひとりに合った対応をしなければなりません。メンタルヘルスの問題は複雑かつ繊細なため、弁護士に専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。
森大輔法律事務所では、経験豊富な弁護士が個々のケースにおける適切な対応策を提案します。ぜひお気軽にご相談ください。