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教職員への懲戒処分

1 懲戒処分とは

 学校法人は、長期雇用が保障されている教職員等に対して、懲戒権を行使することができます。懲戒権とは、学校秩序に違反した教職員等に対する制裁罰のことを言います。そして、懲戒権の種類としては、戒告・けん責、減給、出勤停止、昇給昇格の停止や降格・降職、論告退職、懲戒解雇が挙げられます。

 これらの懲戒権の行使は就業規則等において懲戒事由を予め定めていなければなりませんので、就業規則の作成等は懲戒権を行使する前提として非常に重要となってきます。

 これまでは、教職員が体罰やハラスメントを行ったりしたがことが原因で懲戒処分を受けるケースが多かったように思われますが、近時では、SNSでの不適切な投稿や保護者とのトラブルなどを理由に懲戒処分を行うケースが多いように思われます。教職員の方に原因があり懲戒権を発動せざるを得ない場合は残念ながらあるかと思います。ただ、そうしたときに、いったいどのような懲戒処分を行ったらよいのかという問題があります。

 

2 どのような懲戒処分を選択すべきか

 上記のうち、戒告・けん責、減給、出勤停止あたりまでは訴訟リスクが少ないように思われます。そのため、懲戒の対象となった行為の悪質性や本人の反省態度等の情状面も総合考慮して上記の中から選択することが最もリスクがないものと思われます。

 他方で、学校法人に対して著しい損害を与えたような場合は、戒告・けん責、減給、出勤停止を超えた懲戒処分を選択することもあると思います。訴訟リスクばかりを考えて懲戒対象行為と明らかにバランスを欠くような軽い懲戒処分で済ませてしまうと、他の真面目に働いている従業員が不平等さを感じ、職場全体の士気にも影響しかねません。そのため、学校法人に対して著しい損害(学校の名誉棄損や信用毀損なども含む)を与えたような場合は、毅然とした懲戒処分も必要になるケースはあるかと思います。

 但し、注意が必要なのは懲戒解雇処分です。懲戒権解雇を含む懲戒権の行使については、相当性、公平性、適正手続が求められ(ダイハツ工業事件参照)、慎重な対応が求められます。訴訟になれば懲戒解雇の主張が認められるケースは殆どないと言っても過言ではありません。懲戒解雇になれば再就職も殆どできなくなりますので、労働者にはとって懲戒解雇は「死刑宣告」に値します。そのため、裁判所も懲戒解雇は極めて限定的にしか認めません。そのため、実務上は、懲戒解雇を行う際、解雇通知書の中で予備的に普通解雇の意思表示も行っておくことも検討すべきだと思われます。そうすることで、懲戒解雇が認められなったとしても、普通解雇が認められればバックペイの支払いなどを免れることができます。なお、そのように予備的に普通解雇の主張ができるように、懲戒解雇事由を普通解雇事由にも挙げておくように就業規則を見直しておくことが重要になります。

 

3 懲戒処分想定事例

  • 事例①

 教職員が保護者との間でトラブルとなり、日ごろからストレスを抱えていたため、業務時間外に飲酒をしたことも相まってついつい保護者を誹謗中傷する内容をSNSに投稿してしまった。投稿内容が当該教職員しか分からないためすぐに投稿したのが当該教職員だと判明してしまった。教職員はお酒を飲んでしまっていたこととはいえ許されないことは認め、保護者に謝罪した。

 

懲戒処分

 まずポイントは、業務時間にお酒を飲んで投稿したということですので、プライベートな時間に行った行為を学校側が懲戒することができるかという点が問題となります。しかしながら、この点は、業務中に生じたことをSNSに投稿しているので業務と一体的なものだと思いますし、また、プライベートの時間とはいえ学校に対する信用を毀損させる行為ですので懲戒権の対象になると考えます。

 次に、どの程度の懲戒権が相当かという問題です。保護者に対してどの程度の誹謗中傷をしたのかという点が問題となりますが、投稿そのものが容易に削除をすることができないことを考慮すれば保護者の権利侵害は相当なものになると思います。ただ、他方で本人も反省して点からすれば、戒告は軽きに失しますが、減給、出勤停止くらいの処分は行ってもよいのではないかと思います。

 

  • 事例②

 教職員が教室内で暴れている生徒に席につくように指導をしたが、その生徒が全く言う事を聞かずに授業を開始することができなかった。そのため当該教職員はその生徒に対して教室の外へ出るように命じた。しかし、その生徒は当該教職員の命令を無視して教室内で暴れ続けた。当該教職員は仕方なく、その生徒を押さえつけ倒し、足を引っ張って教室の外へ出した。

 

懲戒処分

 当該教職員の行為はある意味仕方がなかったような気もします。もともと教室内で暴れ授業を妨害していたのは生徒ですし、教職員の方も授業を円滑に行うためある程度の制裁権をもっていると考えることもできます。ただ、問題は生徒を押さえつけて、足を引っ張ってまで外に出すしか方法がなかったかどうかです。仮に、もっと厳しい口頭で注意をすれば席に戻ったかもしれませんので、このような厳しい口頭での注意までし尽した上での行動だったのかどうかがポイントとなります。

 また、足を引っ張って教室の外へ出したことで怪我をしていないかどうかもポイントとなります。当該教師の行為は場合によっては体罰と評価される可能性がありますが、この場合の懲戒処分としては、生徒にそもそも原因があったこと、生徒指導の一環という域をそれほど外れたものでないことも考えるとせいぜい戒告が相当ではないかと思います。

 

  • 事例③

 教職員は、放課後はバレー部の顧問を担当していた。バレー部は夏合宿のために生徒から合宿費を集めていた。合宿費の中から体育館の利用料や、臨時でお願いしたコーチへの報酬の支払いを行う予定であった。しかしながら、臨時のコーチの報酬は実は無料であり、教職員があたかも臨時のコーチにしはらったかのように見せて自分で着服をしてしまっていた。なお、着服した金額は3万円であり被害弁償も行っている。

 

懲戒処分

 教職員は他の職業に比べて高い倫理観を求められている職業です。そのため、生徒たちのお金を着服するということ自体が許されるものではありません。生徒たちの信頼を回復することはおよそ困難であり、そのような教職員に学校で指導をお願いする訳にはいきません。そのため、懲戒解雇の中でも最も重い懲戒解雇を検討すべきです。但し、懲戒解雇は訴訟リスクも高く、訴訟になった際の勝訴率もかなり低いです。本件では金額も3万円と少額ですし、被害弁済されているとのことですので必ず懲戒解雇が法的に有効であると認められる保証もありません。そのため、懲戒解雇が認められない場合に備えて予備的に普通解雇も同時に言い渡しておくべきかと思います。

 

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森大輔

2009年の弁護士登録以来、企業問題に取り組む。森大輔法律事務所を開所し、労働分野や広告、景品表示案件を中心に多くの顧問先をサポートしている。講演実績は多数あり、企業向け・社会保険労務士向けの労務問題セミナーを定期的に開催している。

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