2025年4月1日、プロバイダ責任制限法を一部改正した「情報流通プラットフォーム対処法」(正式名称:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)が施行されました。
本法は、近年、SNSや掲示板などのインターネット上で問題となっている誹謗中傷やプライバシー侵害といった違法・有害情報に対処するために制定されました。
主な改正点として、「大規模特定電気通信役務提供者の義務」(第20条~第34条)及び「罰則」(第35条~第38条)が追加され、大規模プラットフォーム事業者に対し、①対応の迅速化、②運用状況の透明化に係る措置が義務付けられました。
以下では、新たに追加された「大規模特定電気通信役務提供者の義務」および「罰則」について詳しく解説します。
※ 便宜上、送信防止措置を「削除」と表記します。
法第20条では、以下の要件を満たす事業者を「大規模特定電気通信役務提供者」(以下「大規模プラットフォーム事業者」)として指定しています。
・月間発信者数(国内)1,000万件以上、または月間延べ発信数200万件以上
・侵害情報の削除が技術的に可能であること
・権利侵害の可能性が低い特定電気通信役務以外のものであること
大規模プラットフォーム事業者には、被侵害者からの削除申出を受け付ける窓口の設置と公表が義務付けられました(法第22条)。
受付窓口は以下の要件を満たす必要があります。
・オンラインで申請可能であること(同条2項1号)
・申出者に過度な負担を課さないこと(同項2号)
・申請の受付日時を明示すること(同項3号)
また、「過度な負担を課さない」ための具体例としては、
・トップページから簡単にアクセス可能な申請フォームを設置すること
・アカウント取得時に年齢制限を設けている場合、アカウントを持たない者であっても申出可能にすること
・申出者のプライバシー等の権利を侵害しない形で申請できること
などが挙げられます。
大規模プラットフォーム事業者は、被侵害者から侵害情報の削除申出があったときは、当該被侵害者の権利が不当に侵害されているかどうかについて、遅滞なく必要な調査を実施しなければなりません(第23条)。
また、調査のうち専門的な知識経験を必要とする調査を適正に行わせるため、「侵害情報調査専門員」の選任が義務付けられています(24条)。
「侵害情報調査専門員」の要件としては、具体的には、法令の知識又は文化的・社会的背景の理解の観点から、弁護士等の法律専門家、日本の風俗・社会問題に十分な知識経験を有する者(ただい、自然人に限る)が挙げられています。
さらに、大規模プラットフォーム事業者は、平均月間発信者数1000万件につき1人以上又は平均月間延べ発信者数200万件につき1人以上の専門員を配置し、総務大臣に届け出る必要があります。
削除の申出があった場合、大規模プラットフォーム事業者は調査結果に基づき侵害情報の削除をするかどうかについて判断し、当該申出を受けた日から14日以内に、以下の事項を申出者へ通知しなければなりません(第25条1項)。
・削除を実施した場合:その旨
・削除を行わなかった場合:その理由を含め通知
大規模プラットフォーム事業者は、削除の基準を公表し、2週間前までに周知する義務があります(第26条)。
削除の実施に関する基準を定めるにあたっては、次のいずれにも適合するものでなければなりません(同条2項各号)。
・削除の対象となる情報の種類が、大規模プラットフォーム事業者が当該情報の流通を知ることとなった原因の別に応じて、できる限り具縦行きに定められていること
・役務提供停止措置を講ずることがある場合において、役務提供停止措置の実施に関する基準ができる限り具体的に定められていること
・発信者その他の関係者が容易に理解することのできる表現を用いて記載されていること
・削除の実施に関する努力義務を定める法令との整合性に配慮されていること
そして、大規模プラットフォーム事業者は、1年に1回、上記削除の実施に関する基準に従って送信防止措置を講じた情報の事例のうち発信者その他の関係者に参考となるべきものを情報の種類ごとに整理した資料を作成し、公表するよう努めなけばなりません。
削除を行ったときは、遅滞なく、その旨及びその理由を削除された情報の発信者に通信し、又は発信者が容易に知り得る状態に置く措置を講じなければなりません(第27条)。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は、この限りではありません。
・当該大規模プラットフォーム事業者が削除した情報の発信者であるとき(同条1号)
・過去に同一の発信者に対して同様の情報の送信を同様の理由により防止したことについて通知等の措置を講じていたときその他の通知等の措置を講じないことについて正当な理由があるとき(同条2号)
大規模プラットフォーム事業者は、毎年1回(毎年度経過後2か月以内)、以下の事項を公表する義務があります(第28条)。
・削除の申出の受付状況
・削除の申出の規定による通知の実施状況
・削除した場合の発信者に対する通知等の実施状況
・削除の実施状況
・上記事項について自ら行った評価
・大規模プラットフォーム事業者が削除実施状況を明らかにするために必要な事項として総務症例で定める事項
大規模プラットフォーム事業者が各義務に違反した場合、総務大臣はその違反を是正するために必要な措置を講ずることを勧告・命令することができます(第30条)。
また、命令に違反した場合には、刑事罰として1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金を科すことができます(第35条)。
さらに、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第21条及び第35条に違反したときは、その法人に対して1億円以下の罰金刑も科されることになりました(第37条1号)。
今回の法改正により、インターネット上での権利侵害への対応が強化され、特に大規模なSNS事業者には迅速かつ透明性のある削除対応が義務付けられました。
インターネット上でのトラブルを防ぐためにも、プラットフォーム運営者だけでなく、利用者一人ひとりが適切な情報発信を心がけることが大切です。
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