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発信者情報開示請求の目的は、基本的には口コミなどに投稿をした人を特定し、その人に対して名誉棄損などを理由に損害賠償請求することが目的となります。ただ、この損害賠償請求は性質的には慰謝料の請求ということになりますので、金額的には認容判決を受けたとしてもせいぜい20万円から30万円程度のものが多いように思います。この、20万円、30万円のために時間と費用を費やして行うことを考えると費用対効果は非常に悪いと言わざるを得ません。
それにもかかわらずこの発信者情報開示請求を行う真の目的はどこにあるのでしょうか。実は、今後にわたって名誉棄損のような書き込みをさせてないという抑止力にあるだろうと思います。
口コミなどに投稿する人は、匿名サイトであれば、まさか自分が投稿したことがバレるはずがないだろうと思って投稿をしております。そのため、身元を特定され、損害賠償請求をされることで再び投稿するということがそれなりに抑止できるかと思います。おそらく、このようなことが目的で発信者情報開示をする人が大半ではないかと思います。
発信者を特定するためには、当該サイトの管理者に対してその情報を開示してもらう必要があります。ヤフオクやAmazonなどは、住所氏名を登録して利用しますので、サイト管理者が投稿者の情報を持っておりますので、サイト管理者に情報の開示を求めることが可能です。
他方、匿名で利用できるサイトですと、サイト管理者は投稿者の情報を持っておりません。投稿者の情報を含む通信記録(ログといいます。)を保有しているのは、接続プロバイダとなります。そのため、接続プロバイダに対して情報開示を求めていくのですが、この接続プロバイダを特定するためには、まずサイト管理者から投稿者の通信機器に与えられたIPアドレス情報を開示してもらう必要があります。このIPアドレスから「WHOIS」を利用してどの接続プロバイダのIPアドレスなのかを特定することができます。
そして、この接続プロバイダに対して、IPアドレスと接続日時(タイムスタンプといいます。)を投稿記事目録に記載して、発信者情報開示請求訴訟の提起を行います。基本的に接続プロバイダが任意で開示することは考えられませんので、訴訟提起を行うことが必要となります。
接続プロバイダが保有するログの保有期間は一般的に3カ月から6カ月程度と言われております。そして、匿名サイトの場合は、接続プロバイダを特定するためIPアドレスの開示を先に求める必要がありますが、その手続きにも2か月程度かかるものもあります。そのため、口コミサイトに投稿された場合は、1週間や2週間以内には手続きに着手する必要があります。削除したい口コミが投稿されてから数カ月以上経過してしまっている場合は、削除申立てをやってみるまでログが保存されているかどうかが分かりませんので、ご依頼を受けても削除をすることができないケースもあります。
なお、ログが残っていても、その後消去されてしまう可能性が高いので、接続プロバイダが判明したらログの保存を依頼(仮処分も必要なケースもあります。)をすることが必要となります。
発信者情報開示とは、口コミ投稿者を特定して最終的には損害賠償請求を行うための利用される手続きです。具体的にどのような流れで手続きを進めていくかという点について簡単に説明したいと思います。まず、最初に行うのが口コミが投稿されているサイトを管理しているサイト管理者に対して、投稿に使用されたIPアドレスの開示を求めていきます。IPアドレスとは、通信機器に与えられたアドレスのことであり、接続元IPアドレスとも言われています。そして、そのIPアドレスが開示された後に、そのIPアドレスから接続プロバイダを検索し、接続プロバイダに対してログの保存の依頼を行います。そして、接続プロバイダに対して、IPアドレス使用者の住所氏名の開示を請求していきます。
このように、二段階の手続きを採ることになるのですが、接続プロバイダを判明するにはIPアドレスが必要であり、そのIPアドレスはサイト管理者しか保有していないからという構造が理由になっております。
但し、Amazonやヤフオクといったサイトでは、利用するのに住所氏名を登録しなければなりません。このような匿名サイトではないものについては、二段階の手続きは不要であり、サイト管理者に対して直接、投稿者の住所氏名の開示を求めていくことが可能です。つまり匿名サイトのような場合だけ、二段階での手続きが必要ということになります。
なお、改正プロバイダ責任制限法が2021年4月28日に公布され、2022年10月1日から施行されましたが、これにより二段階の手続きを採っていたものを、一つの手続きで発信者情報開示が行える手続きが整備されました。しかしながら、格安スマホ携帯会社のように他社事業者のインフラを利用している会社も多く、IPアドレスの開示を求めても他社事業者のものが開示されることもあるため、結果的にはその他社事業者に対して格安スマホ携帯会社の情報の開示をしてもらい、そこに改めて開示を求めるなど必要があるなど、結果的に現在もこの二段階での開示請求する必要が生じているのが現状です。
IPアドレスの開示は直接交渉で開示請求することができます。その際、IPアドレスだけでなく投稿日時(タイムスタンプ)の開示も求めていきます。また、モバイル系の通信では、IPアドレスを複数人で共有しているため、IPアドレスだけでは特定できませんので、接続プロバイダから接続先IPアドレスを求められるケースがあります。接続先IPアドレスとは、ウエブサーバー側のIPアドレスのことを意味します(単にIPアドレスという場合は、通信機器に与えられたアドレスのことを意味します。)。そのため、改めてサイト管理者に接続先IPアドレスの開示を求めることとなります。二度手間になることを考えれば、最初から接続先IPアドレスの開示を求めておくということも検討すべきかと思います。
IPアドレスの開示を直接サイト管理者に求めていく場合、発信者情報開示請求書という書式を利用します。これは、通称「テレサ書式」と呼ばれるもので、こちらはインターネット上で検索(https://www.isplaw.jp/)しダウンロードして入手することができます。
上記の書式をダウンロードしましたら、サイト管理者に送付するのですが、サイト内にサイト管理者の表示があればそこに送付をします。通常は、サイトのトップページに会社概要の欄がありそこから確認することができます。サイト内にサイト管理者の表示がない場合は、WHOIS検索サイトを利用してドメイン名の登録者が誰になっているかを調査します。登録者とサイトの管理者は通常一致しますので、このような調査でサイト管理者を特定することが可能です。
なお、上記の方法でもサイト管理者がヒットしない場合があります。そのような場合は、サーバー管理者に対してIPアドレスの開示を求めていくこととなります。但し、サーバー管理者がログを管理していない場合は、IPアドレスの開示を受けられません。このような場合は、サーバー管理者に対して、サイト管理者の住所氏名の開示仮処分の申し立てを行うこととなります。
仮に、直接交渉に応じてもらえない場合は、発信者情報の仮処分の申し立てを行います。申立ての相手方(債務者)が海外法人の場合は東京地裁に申し立てを行います。
開示の対象は、IPアドレス、投稿日時(タイムスタンプ)、そして接続先IPアドレスも一緒に開示を求めていくことがよいと思います。
相手方ですが、①サイト管理者が分かっている場合はサイト管理者に対して行いますが、②サイト管理者が不明の場合は、サーバー管理者を相手とします。③仮処分の手続きの中で、サーバー管理者がログを管理しているのはサイト管理者だけであるという主張がされた場合は、サーバー管理者に対してサイト管理者の住所氏名の開示を求める仮処分の申し立てに切り替えます。
仮処分では、権利侵害の明白性(プロバイダー責任法4条1項1号)が争点となりますが、違法性阻却事由のうかがわせる事情の不存在と、同定可能性(誰の名誉権が侵害されているのか特定されているのかという問題)が争点の中心となります。
なお、仮処分については担保の提供が必要となります。発信者情報開示の場合は10万円程度となります。
IPアドレスが開示された場合は、そのIPアドレスを利用して接続プロバイダを特定します。具体的には、IPアドレスをWHOIS検索サイトにかけることで接続プロバイダを特定することが可能です。
但し、IPアドレスは他の会社に貸し出されているケースもあります。そのため、確認作業として、WHOIS検索サイトを利用して、IPアドレスからホスト名(www.がついたもの)に変換(「逆引き」といいます。)し、(www.を除いた)ドメイン名の登録者をWHOIS検索サイトで調べる方法があります。
接続プロバイダが特定された後は、その接続プロバイダに対して通信記録(これを「ログ」といいます。)を保存してもらう必要があります。接続プロバイダはログの保存期間が決まっていて、概ね3カ月から6カ月程度で消去されてしまうからです。ログの保存期間を経過して消去されてしまっていた場合は発信者を特定することはできなくなってしまいます。
では、ログの保存するためにどのような方法をとればよいのでしょうか。直接に接続プロバイダ宛てにログの保存を申し出るという方法もありますが、発信者情報開示請求書(テレサ書式)を利用するのが一般的です。書式に沿って保存を求めていきます。また、より完全にログを保存したい場合には、発信者情報消去禁止の仮処分の申し立てを行います。
なお、現在、格安携帯会社(MVNO)を利用される方も多いと思いますが、格安携帯会社は大手通信事業者(MNO)からインフラを借りて事業を行っております。そのため、MNOのIPアドレスが開示されてしまう場合があります。この場合は、MNOに対して接続事業者であるMVNOの住所・名称を開示してもらうこととなります。方法としては、接続事業者の開示の仮処分という方法になります。そして、開示を受けたら当該MVNOに対してログの保存の依頼や発信者情報開示請求訴訟を起こすこととなります。
投稿者の住所・氏名・電話番号・メールアドレスの情報開示には発信者情報開示請求訴訟を提起することとなります。プロバイダ責任制限法4条1項では発信者情報開示請求を認めるための要件の中に、当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明白であること、という権利侵害の明白性という要件が規定されております。
この規定をみると違法性阻却事由がないことが明らかであるという点まで立証しないといけないのでほぼ不可能なことを要求している規定にも読めますが、現在はこの点については、違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情が存在しないことを意味すると解釈されております。
弁護士に依頼した場合、まずは以下のような流れをとります。
このように、数回にわたって仮処分や訴訟など法的措置を講ずる必要があります。そのため、当初から法律の専門家である弁護士に依頼する方が良いと思います。
発信者情報開示は、接続プロバイダが保有するログが消去されてしまうと発信者情報の開示を受けることは事実上困難となってきます。そのため、弁護士に依頼しないで時間ばかりが経過してしまうと、発信者情報の開示を受けられないという事態に陥ってしまいかねません。複雑な法的措置を講ずる必要もありますので、弁護士に依頼することをお勧めします。
また、発信者を特定すれば権利侵害は収まるケースが多いと思いますが、そのような風評被害を及ぼすような投稿をする根底には労務トラブルなどが存在するケースもあります。特に転職サイトでの口コミ投稿などはこのようなケースが多いように思われます。森大輔法律事務所では、投稿された口コミの対応だけでなく、その根底にある問題にも問題意識を向けて根本的な解決を目指しております。