病院・クリニック・歯科医院の方々からGoogle口コミに誹謗中傷されているので消して欲しいという相談が近時大変多くなっているように思われます。病院・クリニック・歯科医院では患者さんに寄り添った治療が求められるのですが、医療の専門家として時には患者さんに厳しく指導したり、必ずしも患者さんの求める治療方法とは違う方法も提案することがあってしかるべきです。
しかしながら、患者さんの一部には、このような医師の態度に理解を示すことなく、一方的に中傷する方もいるようです。そして、現在は直接クレームに発展するケースよりも、Googleの口コミなどに書き込みをして嫌がらせをするケースが増えているように思います。これらの書き込みを見た医師やスタッフの方々は心を痛め、切実な思いで当該書き込みの削除を希望されております。
では、このような口コミを削除することは可能なのでしょうか。結論から申しますと、削除をするケースもありますが、思ったほど容易ではないというのが現実です。Google口コミの方も、利用者の評価は社会的に価値があるものと考えているため、病院やクリニック、歯科医院からの削除依頼があったからといって簡単に応じる訳ではありません。
削除依頼を受け付けてもらえるためには、何らかの権利侵害があるということを主張立証していく必要があります。そして、多くのケースでは名誉権の侵害(名誉棄損)があったと主張するケースが多く、これらの侵害が認められれば削除される可能性がかなり高まります。
名誉権とは人が外部的に有している社会的評価であり、個人も法人もこの名誉権を有しております。そして、外部的な社会的評価を低下されたと主張立証するためには「事実の摘示」があったことを主張立証する必要があります。
この点、「バカ」とか「アホ」とか「嘘つき」、「死んだほうがよい」などという書き込みは事実の摘示ではありません。そのためこのような書き込みだけでは外部的な社会的評価を下げたということはできません。上記のような書き込みは、個人を侮辱するものであって、名誉権ではなく名誉感情を侵害したものとなります。そして、名誉感情を侵害することも権利侵害の一部ですから、これを根拠に削除依頼をすることももちろん認められます。
しかしながら、この名誉感情を侵害したと主張して削除依頼をする場合、あまり結果を伴わないのも事実です。名誉感情は主観的なものであって個人差が大きいものと言われております。そのため、権利侵害が認められるためには強度な違法性が必要だと言われております。つまり、名誉棄損の主張よりもより強度な違法性を主張しなければ権利侵害が認められないのが名誉感情の侵害の特徴です。
ですので、削除依頼をする際は、なるべく名誉権侵害で主張をすべきです。名誉感情に関する書き込みであったとしても、前後の文脈などの関係から事実の摘示に該当すると構成することも可能です。この点は高度な判断も必要となりますので、弁護士に相談されることをお勧めします。
名誉権の侵害があったというためには、事実の摘示によって社会的評価が低下されたという点を主張立証しなければなりません。この時の社会的評価というのはこのGoogle口コミを見る一般の人たちを基準に判断することになります。ですのでネット特有の言い回しで意味が分からない人がいたとしても、Google口コミを見ている人であれば当然意味が分かるだろうというものであれば、それは社会的評価を下げるものとなります。
次に、名誉権侵害の際に問題となるのは書き込みをした者との表現の自由です。法律はこの点について①公共の利害に関する事実に係ること、②もっぱら公益を図る目的でなされたこと、③重要な部分の内容が真実であること、④論評としての域を逸脱したものではないこと、の各要件を満たす場合は表現について違法性が阻却されるものとしてバランスをはかっています。
では、削除を申し立てる側がこのような違法性阻却事由まで立証する必要があるのでしょうか。この点、東京高判平成25年10月17日は「違法性阻却事由の不存在に関する主張立証は開示請求者において負うものであるが、違法性阻却事由の存在を窺わせる事情が認められないときは、違法性阻却事由は存在しないものと認めるべきである」と、削除請求する側の立証の程度に限定をかけてくれています。言い回しが難しいですが、簡単にいえば削除請求する方で全ての証拠も提出し疑わしい点もなければ違法性阻却事由の不存在の立証は尽くされたと判断されるということになります。
以上のように、削除請求するには色々と法的な判断や構成をする必要があり、簡単に請求できるものではありません。すべての書き込みが削除されるという保証はありませんがより効果的に削除請求していくためにも是非弁護士に相談していただきたいと思います。
誹謗中傷で悔しい思いや苦しい思いをされている方は、是非、森大輔法律事務所にご相談いただければと思います。