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男女雇用機会均等法において、職場におけるセクシャルハラスメント(セクハラ)とは、
①職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
②性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)
をいいます。
法第11条の2第2項の規定により、会社(事業主)は、職場におけるセクハラを行ってはならないこと、セクハラ問題に対する職場の関心と理解を深めると共に、労働者が他者に対する言動に必要な注意を払うよう努める義務があるとされています。
最近、職場における軽い言葉遣いをセクシャル・ハラスメント(セクハラ)と認定した判決が世間の注目を集めています。
佐川急便の営業所に勤めていた40代女性が、2020年以降、年上の元同僚の男性から、職場で名前を「ちゃん付け」で呼びかけられたり、「かわいい」「体形良いよね」と言われたり、下着について言及されたりしたことで、2021年にうつ病と診断される状態となり、その後退職するにいたりました。
そのため、その女性が、職場で「〇〇ちゃん」と名前を呼ばれたこと等はセクハラだとして、年上の元同僚の男性に約550万円の慰謝料を求めて訴えを提起しました。
これに対して、東京地方裁判所は2025年10月23日、「ちゃん付け」は幼い子どもに向けたもので業務で用いる必要はないとし、たとえ男性が親しみを込めていたとしても不快感を与えた、と指摘しました。
そして、上司に類する立場(または影響力を持つ同僚)である男性による、外見や体形、下着への言及など一連の言動とあいまって「羞恥心を与える不適切な行為」で、「許容される限度を超えた違法なハラスメント(セクハラ)」に該当すると認定しました。
その結果、男性に対して、慰謝料22万円の支払いを命じる判決が出されました。
なお、この女性は佐川急便に対しても、使用者責任に基づく損害賠償請求を求めて訴えを提起しました。
こちらについては、2025年2月に解決金70万円を支払うなどの内容で和解が成立しています。
今回の判決によって、業務で用いる必要のない「ちゃん付け」が、相手の尊厳を傷つけセクハラと評価されうることが明らかになりました。
たとえ呼ぶ側が「親しみを込めて」「あだ名っぽく」「冗談で言っただけ」で悪意がなかったとしても、呼ばれた相手がどう感じるか、どう受け取ったかが重要なので、相手が不快に感じたり、上下関係の中で拒否できなかった場合には、単なる「親しみの表現だった」では済まされず、職場における適切なコミュニケーションの範囲を超えたハラスメントと評価されます。
したがって、職場においては「さん付け」「呼び捨てにしない」など、年齢、立場、性別などに関係なく敬意をもって呼び合うことを一人ひとりがあらためて意識する必要があります。
今回の判決は、体形など容姿に関する言及が「ちゃん付け」の呼称とセットだったことによって、許容される限度を超える違法なセクハラだったとの判断に至っております。
容姿に触れる言葉は、業務上必要なコミュニケーションではなく、相手のプライベートな領域に踏み込むものです。
容姿に触れる発言は、相手にとって不快感や羞恥心を与えることがあります。
特に今回のように、呼び方の不適切さと相手の容姿への言及が重なった場合は、セクハラと見なされる可能性が高まります。
したがって、職場においては、管理職はじめ一人ひとりが、何気ない一言でも「その言葉は仕事に必要か」「相手がどう受け止めるか」を一度立ち止まって考えて、相手の尊厳を損なうような言葉を避ける美しい言葉遣いを意識することが大切です。
冒頭で述べたように、佐川急便の被害女性はセクハラ発言をした加害男性に対してのみならず、職場であった佐川急便に対しても、使用者責任に基づく損害賠償請求を求めて訴えを提起しました。
その結果、佐川急便は、解決金70万円を支払いに加え、職場環境を整備する等の対応が必要となりました。
セクハラを防ぐためには、職場におけるセクハラを行ってはならない旨を就業規則に明記したり、どういう言動がセクハラになるのかを周知するための社内研修の実施、セクハラ被害に遭った場合の相談窓口の設置など、職場の環境整備をすることが大切です。
過去の裁判例において、申告されたセクハラについて十分調査せずにあいまいなまま放置したとして、会社にセクハラの賠償とは別に、30万円の支払いが命じられた事案(平成21年10月16日大阪地方裁判所の判決)もあります。
このように、セクハラの被害申告への対応が遅れたり対応を誤ったりすると、被害者に「会社がセクハラを放置した」という悪印象を与え、うつ病になって休職・離職してしまうリスク、会社に対しても損害賠償請求をされるリスク、ひいては、社員全体の労働意欲の低下、会社に対する社会的評価やイメージの低下という重大なリスクを負うことになります。
したがって、社内でセクハラの被害を認知した場合、会社は速やかに適切な対応を取ることが重要です。
では、セクハラ被害の申告を受けた場合、会社はどのように対応すればよいでしょうか?
この点に関して、会社には、①事実関係の調査を行う義務、②被害者が心身の被害を回復できるよう配慮する義務、③セクハラによって悪化した被害者の勤務環境を改善する義務、④被害者がやっかいもの扱いされ不利益を受けることがないように配慮する義務があるとされています(平成22年7月29日札幌地方裁判所の判決)。
したがって、セクハラの被害申告があったときは、被害者が加害者と顔を合わせなくて良いように被害者を加害者から隔離して、更なる被害を防いで被害者が心身の被害を回復できるよう速やかに配慮することが重要です。
隔離の方法としては、被害者と加害者を物理的に引き離すべく、被害者の意向を聞いたうえで別の事業所や別の店舗に配属することが望ましいです。
そのような隔離が難しければ、例えば、事実関係の調査が済むまで出勤を免除して自宅に待機させるなどの方法を検討するとよいでしょう。
次に、会社はセクハラの事実関係について調査を行なう必要があります。
具体的には、まず先に被害者から事情聴取し、被害者の同意を得たうえで加害者から事情聴取をします。
被害者が女性の場合には、被害者からの事情聴取は女性が担当した方が、被害者へのストレスとなりにくくスムーズでしょう。
聴取した内容は、言い分の食い違いの確認や後日裁判になったときに備えて記録にとり、本人に内容を確認したうえで署名・捺印してもらいます。
また、当事者間でLINEやメール等のやり取りがある場合にはスクショ等の提出を受けて、両当事者の言い分に矛盾や不自然な点がないか検討します。
両当事者間の言い分に矛盾や不自然な点がある場合は、再度、両当事者から事情聴取をしたり、被害者の意向を確認したうえで関係者や目撃者からも事情聴取します。
事実調査の結果を踏まえてセクハラの有無を会社として判断し、両当事者に伝えます。
セクハラの加害者が社内の人間である場合、会社は、事情聴取に基づいて認定した諸事情を考慮して、加害者に対する懲戒処分を決定・実施します。
会社は、被害者が精神的な被害を被っていることを踏まえて対応にあたり、被害者の意向をふまえてセクハラの事実を職場内に広げないよう配慮します。
加害者に対して適切な処分をすることによってセカンドハラスメントの発生を防ぐとともに、今回のセクハラ事案の原因などを分析して、改善策を講じたり、セクハラ防止研修を実施します。
もし、会社がこのような調査や事後対応を十分に行わなかった場合、被害申告を放置したとして被害者に訴えられて損害賠償の支払いを命じられることがあります。
先にご紹介した平成21年10月16日大阪地方裁判所の事案は、女性社員からおしりを触られたなどのセクハラ申告があった事案なのですが、会社がセクハラについて被害者から簡単な事情聴取したのみで加害者に対して「誤解をうけるような行為はやめるように」と注意したにとどめたことは違法な対応であったとして、会社は被害者に対する損害賠償を命じられております。
昨今、セクハラ、パワハラはじめ各種ハラスメントは、会社にとって身近で深刻な問題となっています。
もたもたしてセクハラの被害申告への対応が遅れたり対応を誤ったりすると、被害者に「会社がセクハラを放置した」という悪印象を与え、うつ病になって休職・離職してしまうリスク、会社に対しても損害賠償請求をされるリスク、ひいては、社員全体の労働意欲の低下、会社に対する社会的評価やイメージの低下という重大なリスクを負うことになります。
したがって、社内でセクハラの被害を認知した場合、会社は速やかに適切な対応を取ることが重要です。
セクハラの被害申告等によって会社がハラスメント問題を発見した場合には、速やかに弁護士に相談することをオススメします。
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