
Contents
会社を買収した際に、思いもよらない隠れ負債を引き継ぐことになれば、会社を買収した目的というものも達成できないどころか、負の遺産のみを引き継いでその後の会社経営に深刻な影響を与えるということも考えられます。実際に、「事業を引き継いだ直後に、数千万円の未払い残業代が発覚したケース」や「主力商品に特許権技術が使われていたが、実はその特許権は他社のものだったというケース」が報告されております。
M&Aや事業承継の現場では、目に見える「財務諸表」だけでは分からない法的な問題が数多く潜んでいることもあります。これらを見逃したままバトンを渡すことは、後継者に「負の遺産」を押し付けることと同義です。
そこで不可欠となるのが、デューデリジェンス(DD)です。
DDとは、いわば「企業の精密検査」です。特に弁護士が行う法務・労務DDは、書類の裏側に隠れたリスクを洗い出し、安全な承継を実現するための重要な手段といっても過言ではありません。
本記事では、弁護士の視点から、デューデリジェンスの具体的な内容、費用、そして「失敗しないための注意点」までを分かりやすく解説します。
事業承継やM&Aにおいて、財務諸表の数字以上に注意しなければならないのが「労務リスク」です。帳簿には載っていない「簿外債務」として、承継後に数千万円単位の支払いを突きつけられるケースが後を絶ちません。弁護士による労務DDでは、主に以下のポイントを精査します。
中小企業の多くで、労働時間の管理がされていなかったり、独自の計算ルールによる残業代支払いが発生するケースがあります。例えば、残業を禁止していることを理由にタイムカードを用意していないケースや、タイムカードは用意しているがそこに打刻されている時間が労働時間と正確にあっていないというケースがあります。また、「手当で補填しているから大丈夫」という誤解で一切労働時間の管理をしていないというケースも見られます。未払い残業代は過去3年分に遡って請求できるため、このような場合、法的に正しく計算し直すと、一人あたり数百万円の未払いが発生していることも少なくありません。
チェックポイント: タイムカードの打刻の仕方の確認と、タイムカードと給与明細の整合性の確認
固定残業代について正確な理解なく導入して、その後に未払い残業代を請求させるというケースは思ったよりも多いです。固定残業代を導入することでそれ以上の残業代は支払う義務がないと誤解されているケースが多いように思います。最も多く誤解されている点としては、固定残業代を導入していても、その固定残業代を越えて残業がされた場合は、その超過分をさらに精算して支払う義務があるということです。この点の精算がされていない場合は、固定残業代の導入自体が無効となります。その結果、固定残業代として支払っていたものも基礎賃金に含まれしまい、思ったより高額の残業代の請求をされるケースがあります。
チェックポイント:固定残業代としての要件を満たしているか、固定残業代を越えて残業がされている場合は精算がされているかの確認
役職手当を支払うことで残業代を免除している「課長」「店長」が、法的な「管理監督者」の要件を満たしていないケースです。これが否定されると、過去に遡って膨大な残業代請求を受けるリスクが生じます。
チェックポイント: 職務権限の実態、出退勤の自由度、賃金面の優遇措置。
従業員に時間外労働をさせるためには、従業員の過半数を代表する者との間で時間外労働および休日労働に関する協定書を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります(36協定)。そのため、万が一、従業員の過半数を代表する者が形式的なものであり、実際に選任された経緯などがないと、36協定が無効になるというリスクがあります。その場合、これまで行った時間外労働は、法定労働時間を超えた労働させることを禁ずる労働基準法32条に違反することとなってしまいます。また、1年単位の変形労働時間制も従業員の過半数を代表する者との労使協定を締結し届出をする必要がありますが、これが無効となると、1週間40時間、1日8時間を超える労働について未払いの残業代が発生することとなってしまいます。
チェックポイント:従業員の過半数を代表する者が適切に選任されているかのチェック、瑕疵があれば過去に締結した労使協定の追認ができるかのチェック
目に見えないリスクとして、パワハラやセクハラの放置、メンタルヘルス不調による休職者の有無を調査します。これらは承継後の「従業員の離職」や「損害賠償請求」に直結します。
チェックポイント: 相談窓口の運用実態、過去のトラブル履歴、就業規則の規定。
本来加入すべき従業員(パート・アルバイト含む)が未加入の場合、遡及して保険料を徴収されるリスクがあります。
チェックポイント: 社会保険料納付証明書や、労働保険料申告書(控え)および領収証書の確認等。
労務以外にも弁護士がチェックしなければならない法務DDがあります。最も重要なのはこれまでに締結してきた契約内容、特に主要なお取引先様と締結された契約書の中に不利な条項が入った契約書や、経営主体が変更すること自体が契約の解除事由に入っていないかなどの確認が必要となります。また、知的財産権の帰属や使用するにあたっての法的リスクが存在しないか、その他訴訟リスクや紛争リスクの火種がないかなどの確認が必要となります。以下、主な確認事項とそのリスクやチェックポイントについて説明します。
事業承継やM&Aにおいて、最も見落としやすく、かつ致命的なのがこの「COC条項」です。これは、主要な取引先との契約書の中に「経営権が移動(社長交代や株式譲渡)する場合、事前に相手方の承諾が必要であり、無断で行えば契約を解除できる」と定められている条項です。万が一、このような条項が入っていれば主要な取引先を失いかねません。これらについては、弁護士を通じて交渉し当該条項の削除及び無効化すること重要となります。
リスク: 承継後に主要取引先から突然「契約解除」を突きつけられ、大きな売上を失う可能性があります。
チェックポイント: 主要仕入先・販売先、金融機関、ライセンス契約等における解除条項の有無。
自社の強みである技術やロゴマークが、法的に守られているかを確認します。「特許が先代個人名義のままだった」というケースがありますが、先代が引退した後、相続が発生して親族間で権利が分散したり、先代から後になって法外なライセンス料を請求されたりして、事業が立ち行かなくなる恐れがありますので、そのような事態にならないように、今誰に権利が帰属しているか、そのままであればどのようなリスクがあるかなどを明確にし、今後の対応の参考にしてもらう必要があります。
また、商標登録を忘れていたというような事例も少なくありません。他社が類似するような商標を取得し、今後、ロゴや商品名などを使用しないようにと使用差し止めを請求されるといった事態になりかねません。このような事態に陥ると企業価値を根底から崩します。
チェックポイント: 登録名義人の確認、ライセンス料の支払い状況の確認や合意、職務発明規定の整備状況。
長年の付き合いで「契約書を交わしていない」「古い契約書のまま」というケースは危険です。M&Aにおいては、買い手企業から「いつ打ち切られるかわからない不安定な事業」とみなされる可能性があります。また、契約書を締結していないことが多かったりすると、万が一トラブルになった時に解決する基準となるものが存在しないため訴訟リスクが大きいという判断になりかねません。また、契約書が存在しても、実体とあっていない契約書などであれば同じようなリスクが生じることとなります。
チェックポイント: 契約書の存在及び訴訟リスクの確認、損害賠償の範囲、契約解除条項、有効期間の自動更新規定。
現在進行中の訴訟だけでなく、過去のクレーム対応記録から「将来の訴訟の種」を予測します。特に、取引先との契約書が存在しない場合は、これまでの契約期間の長さや、これまでのクレーム対応、口頭での契約内容及び実際の履行状況などを考慮し、訴訟リスクがどの程度あるかを判断することが必要となります。
チェックポイント: 係争中の案件、取引先からの過去の督促、製品責任(PL法)のリスク。
一般的な法務・労務DDは、以下のような流れで進めていくこととなります。
まず情報の外部漏洩を防ぐ契約を結びます。その後、弁護士から「法務・労務資料請求チェックリスト」を送付します。登記簿、定款、過去3年分の賃金台帳、就業規則、主要な契約書などが対象となります。
提供された膨大な資料を弁護士が読み込みます。ここで「契約書の欠落」や「未払い残業代の兆候」など、矛盾や不備を抽出します。
書面だけでは判明しない点について、書面または口頭で質問(Q&A)を繰り返します。このプロセスの丁寧さが、調査の精度を左右します。
上記の③までの作業である程度の疑問が解消されることがありますが、それでも最終確認をする必要が出てきます。また、税務デューデリジェンスを担当している税理士と一緒に経営者の方に直接ヒアリングを行います。法務と税務で被る論点もありますし、疑問点を共有することで新たな視点が出てくることもあります。こうして最終的なインタビューを監査報告書を完成させることとなります。
調査結果をまとめた報告書を提出します。単にリスクを羅列するだけでなく、「そのリスクをどう解決すべきか」「買収価格にどう反映させるべきか」という法的助言を添えて報告します。
「基本合意(LOI)」の後、かつ「最終契約」の前が原則です。DDは、「基本合意(LOI)」の締結直後に行うのが一般的です。概ねの条件(譲渡価格やスキーム)に双方が合意し、「この条件なら進めたい」という意欲がある段階で、最終的な「答え合わせ」としてDDを行います。
なお、セルフDDとして、 売り手側(先代経営者)が承継の2〜3年前に行う「プレDD(自社診断)」も有効です。あらかじめ問題を解決しておくことで、より良い条件での承継が可能になります。
対象会社の規模や資料の整理状況によりますのであくまでも一般的な目安となりますが、着手してから「2ヶ月程度」を見込みます(但し、事案によってはそれ以上の期間がかかることもありますし、2か月もかからないケースもあります。)。
• 準備・資料収集: 2週間程度
• 精査・インタビュー: 2週間〜3週間程度
• 報告書作成: 2週間程度
|
項目 |
費用(税込) |
お支払いのタイミング |
|
1. 着手金 |
33万円 〜 55万円 |
ご依頼時(調査・作成開始前) |
|
2. 成功報酬(1) |
55万円 〜 88万円 |
法務監査報告書の納品 |
|
3. 成功報酬(2) |
55万円 〜 88万円 |
クロージング(株式譲渡契約書の作成および実行)完了時 |
• 着手金: 調査対象企業の規模や、精査が必要な資料の量に応じて決定いたします。
• 成功報酬(1): 融資審査に耐えうる精密な法務監査報告書(法務DD報告書)を納品し、実際に金融機関からの融資が下りた段階で発生いたします。
• 成功報酬(2): 最終的な株式譲渡契約書(SPA)の作成から、権利移転の実行(クロージング)までを完遂した段階で発生いたします。
事業承継における法務DD(企業監査)のケースについて
当事務所では、経営者様のニーズや準備状況に合わせてお選びいただけるよう、3つの伴走スタイルをご用意いたしました。
「まずは現状を知りたい」という検討段階の経営者様には、コストを抑えながら弁護士に随時相談が可能なライトプランをご用意しております。本格的な着手前であっても、法的なリスクの有無を気軽に確認できる体制を整えることが可能です。
具体的な承継準備に入られた方には、月1回の定例打ち合わせを通じて進捗を管理するスタンダードプランが最適です。弁護士が定期的に関与することで、日々の業務に追われて後回しになりがちな事業承継のプロセスを、着実かつ確実に前へ進めることができます。
最も手厚い完全サポートプランでは、弁護士が毎月の打ち合わせを設定し、現在の進行状況の確認はもちろん、法的にカバーすべき事項への対応や、後継者様の教育方法など、多方面でのご相談に対応いたします 。さらに、複雑な契約書や議事録、法務DD(精密診断)報告書の作成に加え、銀行交渉や親族会議への同席など、弁護士が直接現場に介入して課題を解決いたします 。
|
サービス内容 |
ライトプラン |
スタンダードプラン |
完全サポートプラン |
|
月額費用(税込) |
8.8万円 |
16.5万円 |
27.5万円 |
|
主な対象フェーズ |
情報収集・準備期 |
計画策定・実行期 |
最終実行・集中対策期 |
|
契約期間 |
1年間 |
2年間 |
2年間 |
|
法務DD(診断) |
簡易診断(口頭報告) |
詳細診断(書面) |
精密診断(報告書付) |
|
DD報告書の形式 |
打ち合わせでの助言 |
重要リスクの要約書面 |
法務監査報告書(正式版) |
|
定例ミーティング |
メール・電話のみ |
月1回(Web) |
月1回(対面/Web) |
|
会議への同席 |
なし |
なし |
役員会・親族会議等 |
|
ロードマップ策定 |
アドバイスのみ |
共同作成 |
弁護士がフル作成 |
|
契約書・議事録作成 |
既存書類のチェック |
標準雛形の提供 |
オーダーメイド作成 |
|
外部交渉の同席 |
なし |
アドバイスのみ |
銀行・取引先等へ同席 |
当事務所では、スタンダードプランおよび完全サポートプランにおいて、原則として2年間のご契約期間を設けております。これには以下の合理的な理由がございます。
• 着実なリスク解消と価値向上: 事業承継は、法務DDによるリスクの洗い出しから、規程の整備、親族・関係者との合意形成、そして最終的な名義変更まで、通常1.5年〜3年の期間を要する長期プロジェクトです 。
• 「やり残し」のない確実な承継: 単発の調査や短期間の関与では、表面的な問題解決に留まり、承継後に深刻なトラブルが再発する恐れがあります 。
• 伴走者としての責任: 弁護士が一定期間責任を持って隣で支え続けることで、後継者様への教育や金融機関との信頼構築を確実なものとし、100年続く企業への土台作りを完遂させるためです。
※なお、事業の状況変化(廃業やM&Aの中止など)による中途解約については、個別にご相談を承っております。また、登記費用、公証人手数料、印紙代等の実費は別途となります。
税務面でのサポートも必要な場合、弊所より信頼できる税理士事務所をご紹介しております。法務と税務で一元的な情報共有が可能となり、より手厚く、漏れのないサポートを実現いたします 。
