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学校法人の法律問題

 

 一口に学校問題と言っても、教員の労働問題、モンスターペアレントの対応、部活動などを含む課外活動を含む時間外労働の問題、生徒に対する指導やいじめ問題など多くの分野が存在し、関係法律も多岐に渡ります。また、近年の少子化や学校教育現場の改革などにより、学校に求められる問題解決能力は一層高く、かつ迅速になっております。このような厳しい環境ですが、弁護士が介入することで、上記のトラブルを未然に防いだり、問題が生じたとしても適切な証拠収集、事実の解明を円滑に行いスムーズに解決に至ることもあると考えます。

 当事務所ではかかる観点のもと、学校で起こる以下のような問題を扱っております。

就業規則の点検や改定

 学校法人と教職員の間の法律関係は、就業規則により規律されていますが、学校法人と教職員との間のトラブル予防や、教職員の勤務環境の整備のために、

 学校法人としては、就業規則の⑴労働時間、⑵給与、⑶服務規律、⑷休業、⑸解雇や退職、⑹懲戒処分等の規定について、点検・改定する必要が出てきます。

 なお、就業規則に不備がある場合には、労働基準監督署から指導等がなされる可能性もありますので、現在の就業規則が現行法に対応したものなのか、実務に対応したものなのか等の確認は必須です。

 

(1)労働時間

 「労働時間」とは、従業員である教職員が、使用者である学校法人の指揮監督下に置かれている時間をいいます。そして、労働基準法では、実労働時間が8時間を超えた部分について割増賃金を支払うべきと定められています(労働基準法32条1項・2項、37条)。

 近時は、部活動や課外活動などで教師の時間外労働の在り方が問題となっております。公立校などは『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる給特法)』が適用される関係で、労働基準法の適用が除外されておりますが、私立の学校法人の場合は労働基準法の適用がありますので、必ず労働基準法を守る必要があります。

 私立の学校法人としては、教職員の適切な労務管理を実現するために、就業規則上の始業時間・就業時間の規定が実務と適合しているのか、どの時点から割増賃金が発生するのか等を点検し、適切な形に修正するべきといえます。

 

(2)給与

 賃金の計算及び支払の方法等は、教職員と学校法人の双方にとって重要事項です。給与計算については、労働基準法に従って計算をすることが必要です。

 なお、近時は、経営再建を図る学校法人にとっては、経費削減という観点から、給与体系の見直しが必要となってきております。しかしながら、勝手に教職員の給与を減額することは違法となります。減額しなければならない理由があっても、その教職員たちと話し合い同意をもらいながら減額をするというやり方が基本となります。

 

(3)服務規律

 学校法人の存続と円滑な運営の維持のために、学校秩序の確立と維持は必要不可欠です。そのためにも、教職員の労務提供に関する行為規範として、就業規則に服務規律を定めることが求められます。具体的には、

  ・政治活動・宗教活動等を禁止する規定

  ・在職中および退職後の秘密保持義務を定める規定

  ・ハラスメントを禁止する規定

などを、学校法人の理念に照らして定めることができます。また、教職員は教育者としての品位を保つ必要もありますので、私的な行為についても業務と関連するものについては規律を求めることも可能だと考えます。

 そして、この服務規律に違反する場合は、通常、就業規則上の解雇理由となるように定められております。

 

(4)休職

 近時、教職員がメンタルに関する病状を発症するケースが多くなってきております。この場合、教職員を無理に働かせてしまうとより病状が悪化してしまい安全配慮義務を問われる可能性もあります。このような時は、就業規則に定めのある休職制度を使って休ませる必要もあります。

 また、教職員のメンタルに関する病状が業務に起因したものでなければ(入職前から発症していたなど)、休業期間中に治療しても完治しない場合は退職となるという制度を就業規則に設けておくことも必要です。教職員がメンタルに関する病状で業務を履行できない場合は、債務不履行の状態になりますので、休職期間中に完治しない場合は自然退職させる必要があるからです。但し、教職員のメンタルに関する病状が業務に起因しているような場合は、学校法人側の責任もある可能性があるため、治療しても休職期間中に完治しなかったということで退職をさせることは制限されてしまいますので注意が必要です。

 

(5)普通解雇

 教職員による横領等の問題行動が発生した場合、学校法人として、当該教職員を普通解雇することができるのかを判断するために、就業規則に、普通解雇事由を具体的に記載しておくことが必要です。具体的に記載しない場合には、普通解雇をすることが困難となり、職員室全体の雰囲気が悪化することもあり得ます。

 但し、普通解雇事由に該当するような事由があっても、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)と定められているため、普通解雇事由があったとしても直ちに解雇はできないので注意が必要です。解雇が違法だと認定されれば、教職員の地位が認められるので、これまで解雇していたため支払われなかった給与(バックペイ)や、慰謝料、さらには退職をお願いする場合には相応の解決金(1年以上になるケースが多いです)という多額の支払いが求められることになります。解雇をするかどうかは必ず専門家の意見を聞いてから行うべきかと思います。

 なお、社会通念上相当かどうかという点が解雇の有効性で問題となるので、近時の転職が自由にできるようになってきた社会情勢を踏まえると解雇は以前よりも緩やかに認められるようになっているのではないかと考えることもできますが、裁判所は未だそのような考え方を採っていないように思われます。今でも普通解雇するにはハードルが大きいように思いますので、慎重に対応すべきかと思われます。

 ちなみに、普通解雇と懲戒解雇を混同されている方が多いかと思われますが、あくまでも懲戒解雇は懲戒権の行使として行われるものであって、普通解雇は懲戒権の行使ではありませんので、両制度は全く異なる制度です。例えば、従業員がプライベートで事故にあって就労することができなくなった場合、その従業員は労務を提供することができなくなったので契約を解除されてしまいます。これが普通解雇であって、懲戒権とは全く異なるものになります。

 

(6)懲戒処分

 懲戒処分とは、学校法人が、服務規律を守らず学校秩序に違反した教職員に対して、一方的に行う制裁罰をいいます。

 そして、判例は、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する」としています(フジ興産事件、最高裁平成15年10月10日判決)ので、就業規則に規定がない懲戒処分を行うことはできません。例えば、就業規則に減給処分の規定がない場合は、減給処分を行うことはできません。そのため、就業規則には具体的に懲戒事由を記載しておく必要があります。

 なお、懲戒処分の中で最も重いものとして懲戒解雇処分があります。懲戒解雇処分は訴訟でその違法性が争われると使用者側が勝利することは圧倒的にハードルが高いです。そのため、懲戒解雇を行う場合は、予備的に普通解雇も行っておき懲戒解雇の主張が認められない場合に備えておく必要があると思います。

 

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森大輔

2009年の弁護士登録以来、企業問題に取り組む。森大輔法律事務所を開所し、労働分野や広告、景品表示案件を中心に多くの顧問先をサポートしている。講演実績は多数あり、企業向け・社会保険労務士向けの労務問題セミナーを定期的に開催している。

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